在ウィーン国際機関日本政府代表部の北野充特命全権大使は4日、ウィーンの国連工業開発機関(UNIDO)本部を訪れ、李勇事務局長との間でアフリカ・中東諸国を対象としたプロジェクトのキックオフ式典に参加した。UNIDOが担当するプロジェクトは7件、総額約740万ドルは日本政府が補正予算から拠出する。
▲4日の式典風景、北野大使(左)と李事務局長(右)=UNIDOのHPから
北野大使は、「日本、UNIDO、そして支援を受ける国の3者関係は重要だ。日本政府の貢献が支援国の恩恵、特に若い者や女性にとって支援となることを願っている」と述べている(UNIDO報告)。
日本政府が支援するプロジェクトの受益国はイラク、上エジプト、モロッコ、ヨルダン、レバノン、ソマリア、そしてスーダンの7カ国だ。UNIDOが報告したプロジェクトの内容を簡単に紹介する。
①イラク支援計画
イラク政府の中部・北部イラクの域内避難民・帰還者支援活動を援助するものだ。紛争でダメージを受けた中小企業の支援、社会のインフラ再建と職業訓練への寄与で、プロジェクトの総額は150万ドルだ。
同プロジェクトに対し、駐オーストリアのイラク大使、Auday Khairalla 大使は「日本政府の支援はわが国国民、政府へ“イラクはテロとの戦いで決して一人ではない”というメッセージを発信することになる」と強調した。
②上エジプト(Upper Egypt)支援計画
若者の雇用支援、地方経済の多様化を狙ったもので、総額100万ドルの計画だ。若者の雇用環境を改善することで、若者の過激化、不法な移民を回避する。
③モロッコのプロジェクト
総額79万1000ドル。モロッコの東部地方の失業問題と移民問題を解決するため、産業熟練を向上させる雇用促進プロジェクトだ。このプロジェクトには、地元の地方企業と日本の企業を含む国際パートナーが参加する。
④ヨルダン支援
雇用の拡大に貢献し、シリア難民を受け入れているヨルダンの北部・中部Badia社会への食糧安定に寄与する。総額190万ドル。地域の潜在的な農業開発を支援することが期待される。
⑤レベノン支援
シリア難民の流入で重大な影響を受けるレバノンへ100万ドルの支援。家具工業、特に中小企業の雇用創造を支援するプロジェクト。熟練工場訓練は失業者、特に青年たちに提供される。
⑥ソマリア支援
62万5000ドルの支援プロジェクトだ。ケニア国境線地域の内戦、部族間紛争などで同国の国民経済の全分野の生産性が困難に陥っている。
⑦スーダン支援
食糧供給の安定化を支援。そのためにもやし栽培を強化し、新しい市場を生み出す。プロジェクト総額は63万ドルだ。
支援を受ける7カ国にとって日本側の支援は朗報であることに違いない。UNIDOが日本の支援計画を完全に履行してくれることを願うだけだ。
今回の支援計画について、当方には以下の3点の質問がある。
①日本の国家財政が厳しい時、多くの加盟国が脱退するUNIDOと支援プロジェクトを実施する理由は何か。
北野大使は4日、以下のように述べられたというが、もう少し具体的に説明して頂きたい。
He appreciated UNIDO’s focus on inclusiveness in its programmatic activities, and highlighted the prospect of collaboration with the Japanese private sector(UNIDOのHPから)。
②日本政府がアフリカ支援を真剣に考えるなら、開発途上国支援で実績があり、高い評価を受ける国際協力機構(JICA)をなぜ利用しないか。経済支援では国際機関経由ではなく、2か国間支援が主流だ。日本の国益にも合致する。UNIDOのプロジェクトの場合、70%以上のプロジェクト資金が人件費、旅費で消え、現地に投入できる支援は少ないのがこれまでの実情だった。
③北野大使は李事務局長から「なぜ加盟国が次々と脱退するか」の答えを得たか。大使自身はどのようにUNIDOの現状を見ているか。UNIDO内部の腐敗問題を解消せずに、支援を繰り返していても、日本側は財政の浪費ではないか。
以上。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年3月12日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。