TPP国会審議に急いで入るべきではない2つの理由 --- 玉木 雄一郎

■TPP国会審議を急ぐな

後半国会の最大のテーマは、TPP関連法案の審議だと言われている。

政府・与党は、今月中にもTPP特別委員会を設置して関連法案の審議に入り、ゴールデンウィーク明けには成立させようとしている。参議院選挙を控えていることもあり急いでいるのだろう。しかし、急いではいけない。

いたずらに審議入りを遅らせるつもりはないが、すぐに審議に入るべきではない理由が、少なくとも二つある。

■TPP反対のアメリカ大統領候補
まず第一に、現在行われているアメリカ大統領選挙で、民主党の有力候補であるヒラリー・クリントン氏、バーニー・サンダース氏の両氏、そして、共和党の最有力候補のドナルド・トランプ氏も、みんなそろってTPP反対を明言している。

そして、昨年10月5日に関係12カ国で大筋合意したTPPの協定文では、GDPの総計が85%を超える6カ国以上の国々が批准しない限り発効しないと規定している。そのため、GDP第一位のアメリカが抜けてしまえば、そもそもTPPは発効しない。

つまり、日本側が国内手続きを終えても、新大統領がTPPには入らないと決めたら、全てが無駄になってしまうのである。こうした可能性が高い以上、少なくとも本年11月のアメリカ大統領選挙の結果を見定めてから審議に入った方が安全だ。
■サーティフィケーション問題
TPP関連法案の審議を急ぐべきではないもう一つの理由は、米国のいわゆる承認要件(Certification サーティフィケーション)問題だ。承認要件(Certification)とは、ある貿易協定が、参加各国で署名、批准されたとしても、アメリカ大統領が、対象国の国内における協定上の義務の達成状況や、成果の発揮状況が明確でないと認めたときは、協定を発効させない事実上の拒否権を発動できる仕組み、権限のことである。

この米国国内法に基づくメカニズムは、米国とラテンアメリカ諸国との関係に多く見られるが、既にTPPの交渉過程でも論点として持ち出されており、オーストラリアやニュージーランドは、強い反発を示したと言われている。

ただ、先ほど述べたように、TPPについては大統領候補者だけでなく上下院の連邦議員にも慎重意見が多い。そのため、昨年10月のTPP大筋合意後も、米国側の要求を満たすため、関係国のさらなる妥協を引き出す様々な駆け引きが水面下で継続されているようだ。

特に、日米間では、アメリカ議会や産業界からの要求や不満との妥協点を探るため、様々なやりとりが継続している。事実、昨年の大筋合意後、米国の貿易専門誌「インサイド・US・トレード」のインタビューを受けた在米日本大使館の公使が「米国の反対に対応するための創造的な手法がありうる」旨の発言をしている。

また、昨年11月、TPP大筋合意後にフィリピンで開催された日米首脳会談の際、豚の国内対策に関して、オバマ大統領から安倍総理に対して、ビルザック農務長官から森山農相に対して「物言い」がついたと報道されたが、こうした駆け引きの一環であろう。

今後、米国側の不満を解消させる方法として具体的に考えられるのは、追加的な二国間サイドレターを取り交わすことで、TPP協定文を事実上修正、補完することである。

とりわけ、具体的な数値目標を定めた行動計画を日本側が飲むことで、米国議会や大統領の承認要件(Certification)を満たそうとする動きが出てくる可能性がある。要は、実質的なTPP交渉は、まだ終結していないのだ。

■政府は米国との交渉内容を明らかにせよ
そこで、まず政府には、

(1)これまでのTPP交渉過程において、この承認要件(Certification)問題に関して、アメリカとどのような議論があったのか、そして、日米間でどのような合意をしたのか

(2)現在、アメリカ国内のTPP反対論を抑えるための対応として、具体的にどのような要求を受けているのか、それに対してどのような対応を考えているのか

(3)TPP関連法案については既に閣議決定を済ませて国会に提出されているが、これらの法案以外に国内法の変更を求められることがないのか

それぞれ明らかにしてもらいたい。

関連法案の国会審議を終了した後で、アメリカから、あれが足りない、これが余計だと、「後出しジャンケン」で文句をつけられても困るからである。

早期の審議入りを求めるのなら、少なくとも、この承認要件(Certification)に関する説明責任を十分果たしてもらいたい。こうした説明もなく審議入りするわけにはいかない。与党議員も同じ考えだと思うので、政府には速やかな対応を求めたい。

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編集部より:この記事は、衆議院議員・玉木雄一郎氏の公式ブログ 2016年3月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はたまき雄一郎ブログをご覧ください。