政策的条例提案は年0.1件/市、原案可決は99%

昨日、前編の『地方議会報酬ランキング・名古屋では655万円増案』を書いた。
今日は、その後編として、議員の仕事内容について書いていきたいと思う。

 

平均議会会期日数はわずか87日

地方議員は、出席が義務付けられている活動に議会活動があるわけだが、この地方議会は定例会・臨時会を含めても平均会期日数は87.1日、平均本会議日数に至っては23.0日しかない。
議員報酬の年額の推計では平均645万円なので、仮にこの議会会期中だけしか仕事をしていない議員がいるとすると、その議員の日給は約7万4千円ということになる。
ただ、こうした金額面だけを見た印象で、高い安いを判断してしまうと、本質を見失う可能性がある。
どんなに議員報酬を低くしても、その額が意味のない活動にしか使われていなければ、そのコストは「ムダ」だからだ。
そこで議会や議員の本質的な役割は何なのか、という視点をアウトカム(政策成果)にとり、評価していく必要性があるのではないかと思う。

では、議員の役割とはいったい何なのだろうか?

 

議員による政策的条例提案は1市あたり年0.13件、原案可決は99.2%

国会が立法府と言われるように、地方議会においても立法機能は最も重要な要素と言える。国会が法律をつくるように、地方議会は条例をつくることになる。
行政である役所は執行機関であり、本来的な役割で言えば、議会における提案は、条例案に限らず議員側が行うべきではないかとも思うが、実態は180度異なっている。ここからは、最新データとなる2014年の数字をもとに地方議会の実態に迫っていきたい。

図表3:地方議会における議案提出者割合
160315コラム 図表3

地方議会では、89.6%とその提案のほとんどは市長提案になっている。こうした状況は全国どの自治体でもほとんど変わらない。
議員の議案提出には大きく2つの方法がある。定められた数以上の議員による「議員提案」と、委員会として提案する「委員会提案」があり、議員提案は8.6%、委員会提案を含めても10.4%しかない。
こうしたデータを見て、「さすが市長は政策立案能力がある」と思う方もいるかもしれないが、これは市長が提案しているという形式にはなっているが、実際には、市の職員が議案を作っているということである。
その意味では、議員提案や委員会提案の中にすら、議会事務局などの職員が作った議案が数多くあることを忘れてはいけない。

図表4:議員提出議案内容の内訳

160315コラム 図表4

ただでさえ議員提案が少ないことは紹介したが、中身を見ると65.5%とそのほとんどが意見書であることが分かる。条例案に関する議案はわずか11.0%しかない。
さらに細かく見ていくと、政策的条例提案については、わずか1.12%しかない。全議案の中での議員提出の政策的条例提案と考えれば0.12%しかない。
はたしてこうした状況で、地方議会は立法府として機能していると言えるだろうか?
ただ、地方議員にこうした話をすると必ず言われるのが、「国会議員と地方議員とは役割が違う」という話だ。そこについては、首長も議員も双方を選挙で選ぶ二元代表制になっていることなどを始め大きく異なる位置付けになっているので、また別の機会に詳しく紹介したいと思う。
とくに地方議員から指摘されるのが「政策提案と行政チェックの両輪」という話だ。
地方議会は、与党から総理大臣を選び組閣する一元代表制の国会の仕組みと異なり、二元代表制をとるため、議会の行政側は緊張関係にある。そのため、政策提案はもちろんだが、行政の監視機能もしっかりと働かせていかなければならない。
では、こうした視点から地方議会のチェック機能について見ていくことにしよう。
議会における議案提出はそのほとんどが市長提出であることを紹介したが、こうした提案のほとんどが、否決されるどころか、修正もされることなく、99.2%もの市長提出議案が原案のまま可決しているのだ。

図表5:市長提出議案の議決態様割合

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この数字を見た時に、はたして地方議会の行政チェック機能が厳しく働いていると思えるだろうか?

 

どうすれば議会の質が高まるのか

図表6:1市あたりの地方議会における議案提出者割合の推移

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図表7:1市あたりの議員提出議案内容の内訳の推移

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図表8:全議案における市長提出率の推移

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今回は、議員報酬にしぼって書かせてもらったが、ポピュリズムに迎合し「議員の報酬なんて安ければ安い方がいい」などと言うつもりは全くない。
むしろ能力の高い優秀な人材が、地方議員などの立場を活用して地域を活性化してもらう必要がある。言い換えれば、「地方創生」の中心はむしろこうした人材をどう地方が集めていくかということだとさえ思う。
そのためには、人材を集めるためには、むしろ議員報酬を上げなければならない地域や、報酬を上げることで優秀な人材を集めようという地域が出てくるかもしれない。
しかし一方で、現実を見ると、こうした理想とは大きく異なる地方議会の実態が見えてくる。

私自身、超党派議員400人以上の組織である「全国若手市議会議員の会」の会長を務め、当時はこの会のOBが初めて市議会議長会の会長になったということもあり、政党によらず様々な議員を見てきた。
仕事にも恵まれ、議員の立場だけでなく、部長職として市役所職員も務め、現在も非常勤で市の職員も兼務している。また、行政コンサルタントとして、様々な自治体と民間の立場からも連携し、全国の自治体で研修を行ったり、PPPで事業実施したりもしている。
東京財団研究員時代には、現在はキャスターとして活躍されている橋本大二郎 元高知県知事や、消費者庁長官も務めた福嶋浩彦 元我孫子市長のほか、石田芳弘 元犬山市長、木下敏之 元佐賀市長、福島伸享 衆議院議員や森亮二 流山市議会議員らと海外事例などを調査しながら日本の地方議会改革という新たな視点を作って政策提言も行った。そのことが後の地方議会改革の流れにつながった。
議会基本条例の策定や議会報告会の開催など、形式にばかり目が行き、どうも議会自体はあまり質が高まっているようには見えない。
議会改革自体が下火になりつつある現在だからこそ、「議員報酬は下げた方がいい」という有権者の声に耳を傾け、むしろどう質を高めていくかということを考え、改善していく必要があるのではないか。
「民主主義の学校」とも言われる地方自治の質を高めるためには、地方議会や地方議員自身が、有権者から「報酬以上の仕事をしている」と言われるよう変わっていかなければならないのではないか。

 

高橋亮平

高橋亮平(たかはし・りょうへい)
中央大学特任准教授、NPO法人Rights代表理事、一般社団法人 生徒会活動支援協会 理事長、千葉市こども若者参画・生徒会活性化アドバイザーなども務める。1976年生まれ。明治大学理工学部卒。26歳で市川市議、34歳で全国最年少自治体部長職として松戸市政策担当官・審議監を務めたほか、全国若手市議会議員の会会長、東京財団研究員等を経て現職。世代間格差問題の是正と持続可能な社会システムへの転換を求め「ワカモノ・マニフェスト」を発表、田原総一朗氏を会長に政策監視NPOであるNPO法人「万年野党」を創設、事務局長を担い「国会議員三ツ星評価」などを発行。AERA「日本を立て直す100人」、米国務省から次世代のリーダーとしてIVプログラムなどに選ばれる。 テレビ朝日「朝まで生テレビ!」、BSフジ「プライムニュース」等、メディアにも出演。著書に『世代間格差ってなんだ』、『20歳からの社会科』、『18歳が政治を変える!』他。株式会社政策工房客員研究員、明治大学世代間政策研究所客員研究員も務める。
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