一昨日、Impress Watchの「電子書籍の利用率が2割弱で頭打ち」という記事を目にしました。「利用意向なし」が増加、「関心なし」と合わせると6割以上にも上るそうです。
●実は電子書籍はアンマッチだった
2010年に電子書籍が誕生した当初、数年後には電子書籍と紙の本の市場シェアは逆転するといわれていました。ところが、市場シェア逆転はおろか、電子書籍先進国の米国では昨年末から電子書籍の売上が下がっています。電子書籍が誕生してから6年が経過しましたが、市場へ与えるインパクトはさほど大きいものではないと推測することができます。
電子書籍が伸びない理由はいくつかあります。電子書籍は、専用タブレットに相当量を落として持ち運ぶことができます。当初は、それがウリであり大きな特徴として考えられていました。私もタブレット(Kindle)にはかなりの数の電子書籍を落としています。
しかし、ビジネス書、専門書など普段から読むことが多い書籍は、紙の本を購入しています。やはり紙の本のほうが読みやすいのです。たくさんの書籍を落とせる電子書籍は素晴らしいと思いますが、複数の本を同時に読むことはできません。
2014年の文化庁の調査では1ヶ月に1冊も読まない層がすべての年代で増加して、47.5%、1ヶ月に1~2冊と回答したのが、34.5%。日本人の8割は月に1冊程度を読めば善しと考えていることが明らかになっています。日本人の読書離れが明白になっていると同時に電子書籍のアンマッチさを感じます。これは実態を照射しているように思います。
●紙の本はチャーミングである
海外でビジネスをしている人に電子書籍について話を聞くと次のような答えが返ってきます。「東京のようなオシャレな書店は海外に存在しない」「品揃えや陳列方法、店内には書籍検索用の端末が用意されていて便利」「売れ筋がすぐに分かるし、どこの棚に行けば目的の書籍が入手できるか一目瞭然」。紙の本には書店というリアルでオシャレな売り場が連動されています。しかし電子書籍は書店では販売をしていません。
私は目的が無くても書店に立ち寄ることがあります。いま流行っている書籍、タイトル、ジャンルなどを調べることでトレンドを把握することができます。また、入る前には購入意志がなくても、お店を出るときには大量の書籍を購入していることも少なくありません。書店は書籍と読者をマッチングさせる場ともいえるでしょう。
また、著者であれば誰もが実感することだと思いますが、自著が書店に平積みにされていたり、面置きされていることは自分の名刺が書店に置かれていることと同じ効果があります。日々の書店売上ランキングに自著がはいっていればそれは快感以外の何者でもありません。アドレナリンが一気に噴出されます。
紙の本であれば、お客様を訪問する際、セミナー、勉強会などで名刺と一緒に渡すことができます。書籍の存在は信頼を高め自分を効果的にPRするためのツールになります。しかし、残念ながら電子書籍はお客様に渡すことができません。雑誌や新聞の広告で紹介されるのも紙の本がほとんどです。
●紙の本が向かう方向性とは
国会議員政策担当秘書という国家資格をご存知でしょうか。論文試験の問題が非常に高度であることから、国家公務員試験I種より難しいともいわれています。例年の合格者数は20数名(合格率は4~5パーセント)程度という難関です。
しかし、国若しくは地方公共団体の公務員又は会社、労働組合その他の団体の職員としての在職期間が通算して10年以上であることや、専門分野における業績が顕著であると客観的に認められる「著書等」があれば、選考採用審査認定を受けることができます。自著があることは公的資格においても非常に有利であるという一つの好例です。
これから、紙の本はどこに向かうのでしょうか。今後、電子書籍が高度機能化してもその波をくぐり抜けると私は予想しています。電子書籍で読者の想像力や興味をかき立てることは困難だからです。わかり易く説明するなら、紙の本で感動することはあっても、電子書籍で感動したり、感動を与えることは難しいのではないかと思っています。
尾藤克之
コラムニスト
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