大前研一さんは御著書『マッキンゼー ボーダレス時代の経営戦略(2015年新装版)』の中で、次の指摘を行われています――サラリーマン型の社長に問題がある、と言うつもりはない。しかし、トップがサラリーマン化してしまうことに問題がある、と言っているのだ。オーナー型のトップのなかには本当にイノベーションに貪欲な人がいる。(中略)サラリーマン社長をオーナー型に変換する給与体系上の創意工夫があれば、かなり変わってくるということである。日本のトップは報酬は薄くても一生懸命やっている、とよく言うが、要は「何を」一生懸命やるか、その目線の高さの問題なのである。
「創業者の言葉はなぜ残るのか」は、拙著『逆境を生き抜く名経営者、先哲の箴言』1章の冒頭にも書いておきました。日本には約170万の法人企業があり、その数だけ経営者も存在します。そうした経営者の言葉には、学ぶべき箴言(しんげん)もありましょう。
但し、良い言葉として長い間人口に膾炙(かいしゃ)している箴言の語り手を見てみると、その殆どが創業者であります。私自身が個人的に残しているメモでも、松下幸之助さんや本田宗一郎さん等の言葉が多いです。
創業者は大抵十年以上の長きに亘り経営トップの任に当たっており、彼等の言葉は二期四年や三期六年といった任期で務めるサラリーマン社長のそれとは重みが全く異なります。誤解を恐れずに言いますと、サラリーマン社長とは自分の任期中に恙無(つつがな)く、大過なく過ぎればよしという世界でもありましょう。綿々と受け継がれてきた経営を、少なくとも任期の間は失敗せぬよう会社運営に当たるわけです。
一方で創業社長は自ら事業の種を蒔き、リスクを引き受けて汗をかくのです。また様々な経営環境の中で生き残ってきたのです。その意味で背負っている重さに随分と違いがあると思います。
では創業者という人達の基本にある精神は何かと言うなれば、それはあらゆる苦難を乗り越えて企業を創り上げるという不屈のアントレプレナーシップ、即ち起業家精神です。そうした精神を持つ経営者は、好況不況という波を前にしても動ぜず、言葉も常に長期的視野で語っているものです。
上述した拙著で取り上げた言葉は、その殆どが創業者の言葉でありサラリーマン社長のそれではありません。但し「立派だなぁ」と思うサラリーマン社長が誰一人いないということではありません。本ブログで御一方だけ挙げるとすれば、先月のブログでも御紹介した大和ハウス工業代表取締役会長兼CEOの樋口武男さんがその御方です。
樋口さんは「凡事徹底」「現場主義」「即断即決」で、業績不振の支店・債務超過寸前のグループ会社を立て直し、1兆円企業の組織改革と業績拡大を成し遂げられる等々、偉大な成果を収められた御人です。
然もその実績にも拘らず、樋口さんは御著書『凡事を極める-私の履歴書』等でも述べておられるように、大和ハウス工業が今日あるのも全て創業者の石橋信夫さんの御蔭だと一貫して話をされているのです。
樋口さんは唯の一度も御自身が大変な実業家であるとは、口に出して言われたことはないように思います。そうして謙虚にそれを徹底して貫いておられる御姿等を拝見し、私は何時も「この方は何て立派なんだろう」と思っています。
最後に一言だけ、上記拙著で御紹介しなかった創業社長で言いますと、例えば大型リチウムイオン電池および蓄電システムの開発・製造・販売を行っているエリーパワーのトップ、吉田博一さんも非常に偉いと思います。
此の御方は住友銀行(現・三井住友銀行)副頭取、住銀リース(現・三井住友ファイナンス&リース)社長・会長を歴任されて後、03年より慶應義塾大学で教授をやられ御年69歳の06年9月にエリーパワーを設立されたのです。実に画期的な創意工夫で独創的蓄電池を作り上げようとされており、樋口さん同様この吉田さんにも常々頭が下がる思いです。
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