トランプ米大統領の誕生は、地政学的リスク?--- 安田 佐和子

ミニ・スーパーチューズデーを経て、ますますトランプ候補の優勢が際立ってきた米大統領予備選。CNBCが実施したFedサーベイではまだ脅威とみなされていないものの、米大統領選が経済や株式市場に悪影響を与えるとの警戒感が高まってきたようにも見えます。

来日していたユーログループのイアン・ブレマー氏は、トランプ候補が米大統領の本選を制する可能性は排除できないと述べつつ、そのリスクは低いと発言していたとか。ただ、同氏は世界を震撼させる”地政学的リスク”として位置づけていないようです。しかしこちらの機関は、トランプ米大統領の誕生こそ、無視できない地政学的リスクのひとつに挙げています。

英エコノミスト誌の調査会社エコノミスト・インテリジェンス・ユニット(EIU)が17日に発表した”世界の地政学的リスク・トップ10”リストによると、「(トランプ候補の)中東への軍国主義的な態度に加え、イスラム教徒の米国入国禁止を求める強硬姿勢は、ジハードの強力な採用活動ツールになりうる」と指摘していました。また同候補が自由貿易に断固反対の立場を採るほか、中国やメキシコに強硬な姿勢で臨むため”貿易戦争”勃発の恐れをはらむと注意を促します。こうした見解を基に、EIUはトランプ政権が発足した場合の地政学的リスク・スコアを12点と弾き出しました。

そのほかEIUが挙げた”世界の地政学的リスク・トップ10”は、こちら。

1 中国のハードランディング 20点
2 ロシアのウクライナ、シリア介入を通じた冷戦 16点
3 エマージング国の社債市場を引き金とした、債務危機 16点
4 欧州連合(EU)瓦解 15点
5 GREXIT発、ユーロ圏崩壊 15点

6 トランプ候補、米大統領選で勝利 12点
7 イスラム教徒過激派のテロで、世界経済マヒ
8 BREXIT 8点
9 中国の南シナ海、軍事化問題を発火点に武力衝突
10 石油関連の投資破綻を背景とした、オイル危機

EIUといえば英国がお膝元で、トランプ候補の入国禁止を求めた署名が60万人以上集り、キャメロン英首相ですら「一致団結して(トランプ氏に)対抗する」と発言するほどです。地政学的リスクにトランプ候補の名前が入っていても、おかしくはありません。トランプ候補が共和党大会で正式候補に指名されなければ「暴動(riot)」が起きると発言したことを踏まえれば、信憑性が高まるというもの。シカゴでの選挙集会で、抗議者と支持者が衝突するという事態に発展したばかりでもあります。名前が「Trump=勝つ」とあって常人より勝利にこだわる性格なのでしょうが、一方で日本人男性とのカジノ勝負からはトランプ候補の闇が浮かび上がり、恐怖感は禁じ得ません。

余談ながら、BREXITはトランプ候補より低いスコアにとどまっていました。運命の6月23日に、英国民がEU離脱を選択するリスクが高いとは考えていないようです。

(カバー写真:Matt Johnson/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2016年3月17日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。