オーストリア内務省連邦犯罪局(BK)は17日、「2015年犯罪統計報告書」(全62頁)を公表した。それによると、同国の昨年の犯罪総件数は51万7870件で前年比で1.9%減少した。犯罪件数は過去10年間で最低だった。同時に、検挙率は44%で前年比で0.9%上昇した。
たとえ微減でも犯罪件数の減少は治安問題関係者にとって嬉しいものだが、逆に微増だとしても件数増加は公表を避けたいという思いが湧いてくるという。特に、難民、移民が殺到し、国内の治安が騒がしくなってきている時だけに、犯罪件数の増減に対する国民の反応が気になるからだ。
ここでは昨年「犯罪統計報告書」に基づき、同国の「外国人犯罪」について紹介する。
昨年の「犯罪統計報告書」によれば、Big Fiveと呼ばれる主要な犯罪では、家宅侵入窃盗、車両窃盗、経済犯罪は減少した一方、暴力事件(殺人件数は107件から135件と26.2%急増)は前年比で0.4%と微増している。
治安関係者が最も警戒しているのはサイバー犯罪の急増だ。サイバー犯罪はその匿名性と国際ネットワークで年々増加している。2015年は1万0010件で前年(8966件)比で11.6%増加した。サイバー犯罪の多くはインターネット詐欺だ。
国民の安全感覚に大きな影響を与えるのは外国人犯罪の動向だ。オーストリアでは昨年約9万人の難民・移民が流入してきた。北アフリカ・中東からの難民の殺到で国内の治安が悪化すると懸念する声が国民の間で聞かれる。
昨年の犯罪統計によると、犯罪容疑者の約63%はオーストリア人でその数は15万7777人だ。一方、外国人の犯罪者は全体の約37%で9万2804人だった。約3人に1人は外国人容疑者だ。
外国人容疑者の中で失業者は28.6%でもっと多く、次に就業者25.5%、そして難民申請者は全体の15.6%だった。ちなみに、難民申請者の数は外国人旅行者の12.5%を上回った。外国人容疑者の主要な犯罪は、第1に窃盗、そして身体損傷、そして不法麻薬売買と続く。
興味深い点は、外国人容疑者の国別<表>をみると、昨年流入した難民・移民の出身地、シリア、イラクは上位10位に入っていないことだ。例外はアフガニスタンだけだ。外国人容疑者は隣国出身者で占められている。昨年の犯罪統計を見る限りでは、難民・移民の流入が即犯罪の増加に繋がるとはいえないわけだ。
独ケルン市駅周辺で昨年大晦日から新年にかけ外国人らしき若い男性集団が女性を襲撃し、暴行や窃盗を犯した事件はメルケル政権の土台を動かす大事件に発展したことはまだ記憶に新しい。容疑者として拘束された外国人の中にシリア、アフガニスタン出身の難民申請者が含まれていたからだ。オーストリアのザルツブルク市でも同様のことが発生している。また、難民収容所内で難民同士が大喧嘩したというニュースも流れている。難民への風当たりが強まってきている。
BKのコンラード・コグラー公安事務局長は「2015年の犯罪統計には含まれなかったが、問題は今年だろう」と、難民申請者の犯罪の動向に注意を払っている。
国内治安に対し国民の実感と統計の数字は一致しない場合が多い、犯罪件数が微減したとしても、国民は治安に不安を感じるケースが現在だろう。コグラー公安事務局長はメディア関係者に対し、「国民の懸念を煽るような報道は慎んでほしい」と要請したのも頷ける。
<国別外国人容疑者数>
ルーマニア人 9624人
ドイツ人 9161 人
セルビア人 8568人
トルコ人 6398 人
ボスニア人 5232人
ハンガリー人 4348人
スロバキア人 3573人
アフガニスタン 3269人
ポーランド人 3171人
ロシア人 3008人
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年3月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。