独の「貧富の格差」は米国に近づいた

長谷川 良

ドイツ連邦銀行が公表した「3月報告書」によると、個人の純資産は上層部10%が全体の約60%を所有し、社会の下層部の半分は全体の2.5%しか保有していないという調査結果が判明、ドイツで予想以上に「貧富の格差」が進んでいることが明らかになった。

Scannen0123
▲「貧富の格差」の拡大を示すグラフ(ドイツ連邦銀行の「3月報告書」から)

ドイツ連邦銀行は2014年4月から11月にかけ、国民の世帯の純資産を調査した。同銀行は2010年に初めてこの種の調査を実施している。当時、既に「貧富の格差」が見られたが、その傾向は4年後の2回目の調査で一層顕著になってきていることが判明したわけだ。

2014年は上層部の10%は59.8%を占めている。2010年の調査ではその値は59.2%だったから、微増している。所得分配の不平等性を図るジニ係数でも76%と前回比より0.2%で上昇。ちなみに、ジニ係数はユーロ圏の平均値は2014年は69%だった。「貧富の格差」が大きい米国でも2013年のジニ係数は80%だから、ドイツ社会は米国社会に近づいてきているわけだ。

具体的には、ドイツ国民の平均資産は2010年22万2200ユーロ、14年は24万200ユーロだった。純資産額は19万5200ユーロから21万4500ユーロに増えた。

欧州の盟主と呼ばれ、欧州経済の原動力を自負するドイツだが、ドイツ世帯の純資産額が欧州諸国の中では低い。例えば、金融危機に直面したスペインの純資産額はドイツより高い。ドイツ人の不動産所有率はスペイン人のそれより低いこともあるが、共通通貨ユーロといっても、実際はその貨幣価値は加盟国内でかなり異なっているからだ。

一方、中間層の平均資産は6万400ユーロ。10年は5万1400ユーロだったから、過去4年間で18%増だ。ただし、超富豪層が土地や不動産を独占しているドイツでは中央値は平均値より低くなることは避けられない。

2008年のリーマンショックの際、米政府から救済措置(国民の税金)を受けた金融機関が今日、巨額の利益を挙げる一方、多くの国民が失業で苦しみ、社会の「貧富の格差」が拡大してきたことから、米国でウォール街の反政府デモ「我々は99%」が行われたことはまだ記憶に新しい。ドイツ社会ではこの種の反政府デモは見られないが、「貧富の格差」がこのまま拡大していけば、ドイツでも反ウォール街デモ集会が行われる可能性は排除できない。いずれにしても、「貧富の格差」は社会の時限爆弾であることには間違いないだろう。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年3月23日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。