日韓関係の変化

昨年末、安倍首相は懸案材料の一つであった悪化する日韓関係に一定の終止符を打ちました。いわゆる慰安婦問題に関する日韓合意であります。私は翌日のブログで評価すると記したところ、厳しい声を沢山頂戴しました。ご承知の通り、私もカナダにおける慰安婦像建立問題で昨年一年間、相当のエネルギーを使い、本件に取り組んできましたので体験を通しての感覚からあの合意は評価できると意見していました。

多くのご意見は慰安婦問題の解釈について曖昧さを残した点が不満だったと思われます。が、私は解釈問題は学者に時間をかけてお任せすべきと思っていました。それよりも重要な戦略は慰安婦問題というボールを韓国側に投げ返し、韓国が自国内で解決させる形としたことに大いなる意味があったと思っています。

日韓の首脳同士が会談も出来ない事態が長く続くのは尋常ではありませんでした。幸いにもその間は目立った国際問題が生じず良かったと思いますが、今日、あの合意がなく、日韓の間に冷たい亀裂が入ったままであったならば北朝鮮を巡る問題で往生したことでしょう。幸いにもあのわだかまりが解けた今だからこそ、ワシントンで日米韓の首脳会議もすっきりとスケジュール調整できたようです。

日本人の韓国に対する姿勢は韓国を訪れる観光客の動きでも変化があったようです。NHKによると2月に訪韓した日本人は3年半ぶりに前年同月を上回り、昨年10月からの回復傾向を鮮明にしたとのことです。

慰安婦問題については韓国内でも「声の大きさ」で左右されていたことが少しずつ明るみに出ています。今回の日本側の歩み寄りに対して元慰安婦から「相当数」の賛同の声があるにも拘わらず、挺隊協絡みの組織が大きな声を上げ、あたかも韓国が皆不満に思っているようにしつらえていたことが少しずつ報道としても出てきています。北米に於いても一部組織団の暴走的押し込みで世論をかく乱させ、判断を誤らせるケースもあります。

但し、私としてもあの日韓合意に関してもろ手を挙げて良かった、とは言いません。例えば例の10億円の拠出についても個人的には各地に建立された慰安婦像の撤去を条件にするべきだと思っています。特にアメリカなど第三国に建立されたものはそれが増幅したイメージをもたらし、日本人にとって不愉快千万であります。

近年の慰安婦問題の盛り上がりは元をただせば2011年の韓国に於ける憲法裁判で個人のその補償請求を妨げるものではないという判決を機に韓国政府が本件に対して頑なな態度に転換したものであります。ならば、今回その問題解決で同意し、多くの第三国がそのウィットネスとなっている上、憲法裁判所の判断が最上級で最終的な結論だという前提に立てばこの問題が日本に再び跳ね返ってくるリスクは小さくなったと言えます。特に生存している元慰安婦の方々が相当の高齢であることも考えれば個人的にはこの問題はもう蒸し返すべきではないと思っています。

となれば両国が今、目指すのは慰安婦問題という個別問題から離れ、いつ何が起きるかもしれない北朝鮮の暴発に備えることでありましょう。特に暴発に対する情報、諜報、軍事的対策も重要ですが、仮に金体制が崩壊した際に北朝鮮をどう支えていくかという経済支援、人道支援など問題は山積するはずです。その際に両国間で話すらできない状態にあるのは不都合この上なく、世界から見れば「子供の喧嘩」ぐらいにしか思われません。ちなみに尖閣の問題も海外からするとあんなちっぽけな岩山に固執する両大国というトーンが主流です。(もちろん事実はもっと深いものがあるのですが、他国から見ればあんな岩山の問題を世界経済第二と第三の国が争っている=解決能力がない、としか思われないのでしょう。)

勿論、昨年末の合意で日本人の韓国に対する感情がすぐさま変わるものではないでしょう。同じことは韓国側にも言えます。が、時間が経てば状況は少しずつ変わると思っています。両国間の感情も一定のサイクルで良化、悪化します。個人的には今は最悪期を抜けて良化の方向にあるとみています。少なくとも北朝鮮問題については韓国と日本は同盟である点はよく踏まえておく必要があると思います。

では今日はこのぐらいで。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 3月24日付より