今週のメルマガ前半部の紹介です。ショーンKの学歴(というか存在ぜんぶひっくるめての)詐称問題が列島を震撼させております。最終学歴をちょっと盛った程度の話じゃなくて、生まれから人種までほぼまじりっけ無しのニセモノだったわけで、廃棄食材横流し会社も真っ青の偽装っぷりです。
しかも、スケールが凄い。フジやテレ朝といったキー局に食い込んで地上波レギュラーに収まっていた彼がだました相手の数は、恐らく一千万人近いのではないでしょうか。
マス相手だけではなく、質的にも素晴らしい戦果を挙げています。「日本の教育:産学連携のダイナミズムを取り入れた知の生態系-スタンフォード大学Center of Integrated Systemsの学際教育をベンチマークに」というタイトルで最高学府で講演までしちゃってるわけですから、知的最高水準層もモロに引っかかってしまったわけです。まさに日本中に「一杯食わせた」といっていいでしょう。
氏はいかにしてこれほどの戦果を挙げることができたのか。そして、なぜにメディアはそのお膳立てをしてしまったのか。よい機会なのでズバリ踏み込んでみたいと思います。
実は筆者も完全にだまされてました
偉そうなこと言う前に告白しておきますと、実はですね、よく考えたら筆者は以前に一度ラジオ番組に呼ばれていてお会いした経験がありました。はい、私自身、完全にだまされてました(笑)
たぶん7年くらい前で、氏がまだテレビに出始める前のことだったと思います。まさかこんな逸材とは思わなかったのであまり記憶には残っていないんですが、以下その時の話。※
筆者は氏のことは存じ上げなくて、たぶんクリス・ペプラー的な人だろうなと思っていたんですが、スタジオ行っていろいろ話すと実は世界を股に掛ける経営者だと知って驚いた記憶がありますね。
で、氏の印象ですが、声音がいいだけじゃなくてとにかく話が上手いです。アドリブで空気を読みつつ的確に自分の意見をかぶせてくるスキルは、プロのパーソナリティやアナウンサーと比較してもまったくそん色ないレベルですね。ていうか顔採用されてる局アナの中にはそっちのスキルがからっきし無くて話していてイライラする人も少なくないですが、ショーン氏とは話していてそういった不便さは全然感じませんでした。
それから、これは恐らく氏の“成功”の肝にあたる部分だと思いますが、彼は話の中に巧みに自己PRを混ぜてきます。たとえば、新卒一括採用と中途採用の違い(長期雇用を前提にゼロから育てるか流動的な労働市場を前提に即戦力採用するか)について話すと、こんなことをさらりと言ってくるわけです。
「うちなんかもスキルのある経験者採用が中心ですね、世界中でね」
氏はたぶん、筆者に面と向かって「おいらは世界五カ国に事業展開してる年商30億円企業の代表で世界中を飛び回ってるだぜ」的なことは一言も言ってません。でもいろいろ話しているうちに、そういう情報がいつのまにか刷り込まれているわけですね。
人間というのは面と向かって「俺は凄いんだ」と言われると、ん?ほんとかな?と身構えるもんですが、何気ない会話の中に情報を混ぜて流されるとガードの脇から自然と頭に入ってきちゃうんですね。恐らく今回の騒動発覚後に氏の出した「自分は言ってもいないことがサイトの誤情報などで一人歩きしてしまった」というコメントは、あながち間違いでもないかなという気もします(もちろん確信犯でしょうが)。
あと、こんな話もありましたね。「大学での勉強は本当に社会に出て役に立つのか」という学生?からの質問にたいして
「自分はいろいろな大学で学ばせてもらったけれども、今のポジションについてからそれらが血肉になっていると実感できます。だから長い目で見て努力するべき」
「そ、そうですね(筆者圧倒)」
というわけで、今思い返すと噴飯ものですけど、小一時間も話すうち筆者は完全にだまされちゃいましたね。
ただ、今さらながら思い返してみると、いくつかおかしな点もありました。それは以下の3点です。
1. 具体的な話は避けようとする
たしか就職活動がテーマだった気がするんですけど、筆者が労働市場の構造的な課題について説明しようとすると、話題を変えちゃうんですよ。その時は一般リスナー向けにライトな内容をキープする方針なんだろうと理解しましたけど、今にして思えば、突っ込んだ話は分からないからされたくなかったというのが本音のように思えます。
2. そんな忙しそうな人にはとても見えない
そもそも、世界中の拠点を飛び回っているビジネスマンがFM局のレギュラー枠もってのんびり座ってるということはまず不可能なわけです。(グローバルではない普通の)経営者や政治家がメディアに出演する場合でも、秘書やスタッフが数人待機していてスケジュール管理しているから、現場はピリピリしているもんです。筆者自身、忙しいから喫緊のテーマ以外はVTRか電話にしてくださいとお願いすることはよくあります。でも、ショーン氏にはそういうピリピリ感がまったくないんですよ。まあこれは当時の時点で気付くべき点だったと思いますが。
3. 私服が80年代ジャパン臭い
それと、最後。テレビ進出後はスーツでバシッと決めてる姿(まあそれもちょっとやりすぎ感ありますが)しか知らないって人も多そうですけど、私服はいたって普通、というかむしろ垢抜けない印象でしたね。ニューヨーカーというよりは、80年代日本という印象です。山口出身の筆者にはどことなく親近感がありましたが熊本育ちと考えると納得ですね。
という具合に、ショーン氏とのやり取りを思い出してみましたが、一杯食わされたことに対する怒りとか不快感みたいなものは不思議と無いですね。むしろ芋焼酎飲みながらいろいろ武勇伝聞いてみたい気がします。なんにせよ、このまま埋もれさせるのは実に惜しい。
筆者の感想からいうと、氏は自分から派手に売り込んでいくギラギラしたタイプではありません。ましてそれで誰かから大金を引っ張ろうという大それた野望とも無縁でしょう(そういう人だったら報ステなんて表舞台には出てこないはず)。恐らく氏は、そうした攻めのホラではなく、周囲の期待に合わせて自分を盛ってしまう守りのホラの人だと思うんですよ。
だから、実はショーンKを作ったのは、そうした偶像を欲しがった視聴者であり、そしてそれを提供したメディアではなかったのか。本人は意外とJ-WAVEでこじんまりとパーソナリティやってる時が一番幸せだったんじゃないでしょうか。なまじ器用すぎたばかりにいろいろ仕事が増えて、気が付いたらニュース番組の司会にまで上り詰めていたというのが実際のように思います。
一定期間の謹慎は仕方ないです。でも、出来れば「ショーンKの作り方」みたいな自伝を書いて、いかにして一介の熊本の青年が根性でネイティブイングリッシュを身に着けたのか。そして、報道番組のアンカー任されるまでにいたったのかを赤裸々に語って欲しいです。とりわけ、どんどん話がでかくなっていくことへの恐怖と達成感の板挟みになっていくプロセスを(“盛り”なしで)描き切っていただきたい。実はそれって、自分的には今一番読んでみたい本だったりします。
※記憶ベースなのでだいたいこんなノリだった程度に考えてください。
以降、
メディアはいったいどういう基準で出演者を選んでいるのか
フジはどうってことないけれどもテレ朝は冗談で済まない理由
編集部より:この記事は城繁幸氏のブログ「Joe’s Labo」2016年3月24日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった城氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はJoe’s Laboをご覧ください。