なんて夢のないタイトルなんでしょうか。いまどきいい大学を出ていい会社に就職してもしょうがない、というのは少なくとも僕が物心ついたころからよく言われていました。しかし、いまでもこのコースは健在です。そして、実際によく考えてみると、これ以上の家庭の教育の目標は、なかなか思いつきません。そして、こうしたことをバカにしている識者でも、いざ自分の子育てとなると、このような道を進ませています。
たとえば、大前研一さんは、マッキンゼーの日本支社長にまで出世し、いくつものベンチャー企業への投資や経営も行っている世界的なビジネスリーダーで、ことあるごとに日本の偏差値教育をディスっていました。しかし、あの大前さんでさえ、息子に必死こいて勉強をさせて中学受験をさせました。そして、めでたく早稲田実業(日能研R4偏差値=64)に息子を合格させました。そして、その息子がけっきょく途中で、こんな勉強なんか意味ないと言い出して退学することになり、せめて早稲田大学ぐらい卒業して欲しいと嘆き悲しんだそうです。
もちろん、家業を継がせたい、歌舞伎役者にしたい、スポーツ選手にしたい、など特殊な教育目標がある家庭もあると思います。そういう家庭は、それぞれでがんばればいいと思います。しかし、ほとんどの家庭は、なるべくいい大学に行かせたい、というところに教育方針が落ち着くはずです。
これまで論じてきたように、こうした教育に問題があるのも明らかです。また、細かい点でも、古文や漢文、行き過ぎた受験数学、込み入った知能テストと化している受験英語など、どのような分野に進むにせよ、日本の受験勉強に無駄があるのも事実でしょう。だったら、プログラミングを学ばせたり、簿記などの勉強をしたり、英会話の時間を増やしたりと改善の余地はいくらでもあります。受験勉強そのものだって、理論的にはもっと効率のいいカリキュラムを自前で組むことは可能です。なぜならば、塾や私立学校などの受験産業のカリキュラムは、受験での合格には完全には最適化されておらず、受験成功と塾や学校の収益最大化というデュアルマンデートになっているからです。
しかし、もっと理想的なカリキュラムがあったとして、それを親がかかりっきりで子供にこなさせるのは労力的にも、子供が反抗期になって親の言うことを聞かなくなるなどの実務的な点でも現実的ではありません。家庭教師を雇って、カスタムメイドのカリキュラムを子供にやらせるなど、途方も無い金がかかるでしょうし、それが上手くいく保証もありません。なぜならば、子供の偏差値を上げることにおいて、カリキュラムの良し悪しは大きなファクターではないからです。やる気がもっとも大きなファクターで、塾で同じ目標に向かってみんなががんばっているという環境に放り込むことこそが、大抵の場合、もっとも上手く子供のやる気を引き出す方法だからです。
ほとんどの家庭では、教育は、良くも悪くも、既存の学校や塾を上手く使っていくしかありません。それでは、以下、時系列で重要なポイントを解説していきましょう。
『週刊金融日記 第201号 現代受験工学の最前線』
『週刊金融日記 第202号 早期教育の効果と副作用』
『週刊金融日記 第203号 先取り学習は最強だが最も効率の悪い勉強法』
『週刊金融日記 第205号 そもそもカリキュラムの目的は何なのか』
【0~5歳 早期英才教育】
これらはすべてインチキだと思って間違いありません。水素水とかマイナスイオンとかといっしょです。もし、それに効果があるなら(ベルカーブを右にちょっとばかりズラすほどの統計的な効果が認められるなら)、現在の知的職業で成功している人たちの多くが、早期英才教育を受けているはずですが、現実的には、そのような環境で育った成功者はほとんどいません。さまざまな学術研究も、そうした幼児教育の効果には否定的です。
犬を飼っている人に、そのことが経済合理的ではないと説教をするのは野暮というものです。そうしたお稽古事を子供が楽しんでいたり、ある種の高級ベビーシッターとして親にとってもメリットがあり、経済的に余裕がある家庭なら別に無理して止める必要もありません。しかし、たとえ余暇としていいとしても、業者にこうやったら子供が天才になりますよなどとそそのかされて、バカなママがそれに乗り、その結果として自分のポケットからお金が出ていくというのは、決して気持ちいいものではありません。もっと正直なベビーシッターや、余暇のための余暇にお金を気持ちよく払いたいものです。
ところで、IQを引き上げることを保証するというような幼児のための教室がありましたが、そもそもIQテストというのは、出来の悪い中学受験の数列の問題を並べたような本当にしょうもないもので、あんなもので知能が測れると思っているとしたら、それこそ絶望的に知能が足りません。そして、それが出来の悪い中学受験の数列の問題なら、あらかじめ子供に何度も練習させておけば、誰でもIQが上がるのは自明です。
【6歳 私立小学校受験】
名門私立小学校に入るのはかなりの勉強をしないといけません。しかし、それで子供の頭が良くなり、将来、偏差値の高い大学に受かる可能性が高まることはありません。お受験は、親(正確にはバカな母親)の自己満足であり、子供にはただただ負担なだけです。幼稚園で砂遊びをさせたり、家でマリオカートやスプラトゥーンをやらせておいたほうが、よほど頭は良くなるかもしれません。なぜならば、それらは自発的な遊びだからです。先生や親にやらされる勉強とちがって、子供は目一杯頭を使います。
お受験をすると、塾代だけで100万、200万飛んでいきます。そして、授業料+諸経費で私立小学校は、1年に100万円ぐらいかかるので、公立小学校と比べて全部で700万~800万円は控え目に見積もってかかるということです。
エスカレーター式で大学まで行ける場合、ほとんどのケースで子供の学力は最低レベルになります。なぜならば、ほとんどの子供は受験勉強で尻を叩かれないと勉強しないからです。決して自分の子供を信用してはいけません。子供は怠け者で、放っておけば、YouTubeと3DSしかやりません。それで、将来はヒカキンになりたい、みたいなバカのことを言い出すに決まっています。勉強せざるを得ない環境に、上手く追い込んでいかないといけません。
さて、結論としては、なんとしてもお受験は避けなければいけません。しかし、東京の高級住宅地に住んでいると、お受験が当たり前になります。ママ友同士の熾烈な見栄の張り合い合戦で、不幸にもお受験に参戦することになるリスクは決して小さくありません。だから、金持ちの専業主婦がたくさん住んでいるような土地は、子育てに向かない、と僕はあれほど口を酸っぱくして言ってきたのです。
最初は、やんわりと奥さんを説得しましょう。しかし、あまりにも強硬にお受験を阻止しようとして、奥さんの機嫌を損ねて、家族がギクシャクするのもよくありません。はっきり言って、高級住宅地に住んだ時点で、もう負けているのです。
どうしても奥さんが考えを変えてくれないようなら、子供が受験で落ちることをひっそりと祈るしかありません。バカな政治家を心の中では心底軽蔑しているのに、ニコニコして従っている霞が関の官僚のように、奥さんには面従腹背でがんばりましょう。親の面接もあるようなら、会社を休んでちゃんと出て、めいっぱいめんどくさい発言をしてください。うわぁ、こいつら入れたらめんどくさいことになりそうだなぁ。落としとこうか、と面接官に思わせたら勝ちです。もちろん、奥さんと子供には、残念だったねぇ、みたいな神妙な顔をして励ましの言葉でもかけておきましょう。
めでたく子供が私立小学校に落ちてくれたら、心の中で小さくガッツポーズして、若い愛人と美味い焼肉でも食べにいって乾杯してください。これで600万円浮いたわけですからね♪
【中学受験 vs 高校受験】
さて、ここからがいよいよ本番だと言っていいでしょう。中学受験のコストとリターンを冷静に見極めていきましょう。まずは、偏差値を1ポイント引き上げるのにいくら金を突っ込めばいいのか、見積もってみましょう。・・・
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編集部より:この記事は、藤沢数希氏のブログ「金融日記」 2016年3月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、「金融日記」をご覧ください。