消費増税は、なぜ経済学的に正しいのか



安倍首相は、昨夜の記者会見で「消費税の増税延期も衆議院の解散もない」とのべたが、まだ情勢は流動的だ。量的緩和が失敗に終わったリフレ派は増税延期の大合唱をしているが、「財政で景気政策なんてもう古い。これからは金融政策だ」と言っていたのは忘れたのだろうか。

本書も指摘するように、急速な高齢化と人口減少に直面する日本で、金融政策で「デフレ脱却」などというのは幻想だが、財政政策は短期的には効果がある。安倍首相が金融政策にまったくふれず、当初予算の前倒し執行や補正予算を示唆しているのは、3年前よりは進歩したのだろう。

だが増税延期も補正も、財政赤字を増やす目先の景気対策にすぎない。首相は「増税で税収が減っては元も子もない」というが、2015年度の税収は約55兆円と、増税前から8兆円増える見通しだ。「成長すれば財政赤字は減る」というが、2020年にプライマリーバランス(PB)が均衡するのに必要な名目成長率は4%以上だ。

しかもPBが均衡しても、問題は解決しない。むしろ問題は2025年以降に深刻化する。20年代なかばに団塊の世代が70代後半の「後期高齢者」になると、医療・介護のコストが増える。後期高齢者の本人負担は1割なので、特に医療費が激増するが、安倍政権は20年以降のことは考えていない。

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著者のシミュレーションによれば、消費税8%でゼロ成長のまま金利が3.8%になる最悪のシナリオDでは、図のように2030年には公債残高はGDPの3.8倍になる。消費税10%で名目成長率1%で長期金利1%というシナリオCでも2.5倍だ。消費税率を13%まで増税するシナリオBでも現状維持だが、これは名目成長率3%が前提だ。

このうちシナリオCが現実的なので、2020年に公債残高がGDPの2倍を超えたころから、財政は維持不可能になるだろう。現状維持するだけでも、消費税を25%以上にする必要がある。つまり大幅な歳出削減を実施しない限り、財政は2020年代に破綻するおそれが強い。削減の対象は、一般会計の1/3を占める社会保障以外にない。

特に公的年金の賦課方式が、世代間の不公平を生む最大の原因だが、これを積立方式に変更することは政治的に困難なので、著者は個人勘定賦課方式を提案する。これは子供の年金保険料や税負担を、その親に限って給付するしくみで、昔の「子が親の面倒をみる」考え方に近い。

しかし根本的な問題は政治である。この点で著者がかねてから提案しているのは、世代別選挙区だ。これは小選挙区を青年区(18~40歳)、中年区(40~60歳)、老年区(60歳以上)に分割して選挙するもので、投票率の低い若者も老人と同じ代表を出すことができる。

いずれにせよ財政も社会保障も、経済問題としては単純で、むずかしいのは政治だ。与野党ともに老人の支持を失うことを恐れて、消費税の増税すらびびっている。この日本経済の最大の問題に対案を出せない野党は今度の選挙で壊滅し、未来の有権者(それは今の老人よりはるかに多い)を代表する新しい党が出てきてほしい。