人間力の磨き方

大和ハウス工業代表取締役会長兼CEOの樋口武男さんは『「人間力」を磨く五訓』として、「一、自己益を忘れ、会社益を想え」「二、嫌な事実、悪い情報を包み隠さず報告せよ」「三、勇気をもって、意見具申せよ」「四、自分の仕事に非ずというなかれ 自分の仕事であるといって争え」「五、決定が下ったら従い、命令はただちに実行せよ」を挙げておられます。

これらは言わば、一般企業での人間力の磨き方であろうかと思います。人間勿論その殆どの時間は働いているわけですから、仕事を通じて人間力を磨いて行くのが一番ありがちなことですし実際そうすべきだと私は思います。

人間力の磨き方と言った場合、会社組織では上司・部下あるいは御客様・御取引様といった関係においてなされるのではないかと思います。では例えば、自分一人で一生懸命陶磁器の制作活動をしている人は何以て人間力を磨くというのでしょうか。自分一人でと言っても師弟関係もあるかもしれません。

また、誰かに制作物を評価して貰い場合によってはある値段で売却するということが有り得ましょう。従ってそれは最終顧客、あるいは卸等との関係において自分を磨いて行く機会を見出し得ると思います。

尤も、会社勤めをする前にそれまでの体験・知見により人間力はある程度決まっています。そもそも人間力の源とは何なのでしょうか。孔子を始祖とする儒学では人間力を高めるために「五常(ゴジョウ)」をバランス良く磨くべしとして、大きく言って此の五常が基本的に人間力の源泉になっていると考えられます。

五常とは夫々に、「仁:他を思いやる心情」「義:人間の行動に対する筋道」「礼:集団で生活を行うために、お互いが協調し調和する秩序のこと」「智:人間がよりよい生活をするために出すべき智慧」「信:集団生活において常に変わることのない不変の原則」と、拙著『君子を目指せ小人になるな』(致知出版社)にも書きました。

更に此の五点は対人関係に関するものである信と、自分の人格(人徳)を磨くことに関わる四常(仁・義・礼・智)に分けられます。儒教では「修己治人(しゅうこちじん)…己を修めて人を治む」を実現すべく五常が大事だとされ、夫々にレベルが高いことを以て徳が高い人物だとされています。

ではそれをどうやって鍛えるかと言いますと、一つは時空を越えて精神の糧となるような古典を中心とした良書を深く読み込んで、自分で私淑する人を得その人を出来る限り吸収して行くということです。

そして自分自身を鍛え築き上げて行くのは自分以外にないという強い意志と覚悟を有し、仁・義・礼・智・信という五点で以て良き方向に変えるべく必死に努力し続け、結果として人間力が鍛えられることになるのです。

先述の通り、私淑する人物やその人の著作から虚心坦懐に教えを乞うと共に、片方で毎日の社会生活の中で事上磨錬しその学びを実践して行くのです。先達より学んだ事柄を日常生活で日々知行合一的に練って行く中で初めて、人間力は醸成されて行くものだと思います。

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