筆者は特に特撮ファンということもないのだが、先日、つきあいで映画「仮面ライダー1号」を見に行ったらいろいろ思うところがあったのでまとめておこう。
「仮面ライダー」とは1971年にスタートした子供向けの特撮番組で、以後も様々な新バージョンのライダーたちがコンスタントに世に送り出され、21世紀の今に続く息の長いコンテンツとなっている。きっと誰でも「アマゾン」とか「ブラック」とかいう名前くらいは聞いたことがあるだろう。
その初代仮面ライダーが主役としてカムバックして、現在進行形の若手ライダーらと共演するというのが本作だ。ストーリーはネタバレになるので書かないけれども、見ていて印象に残ったのは以下3点。
1.初代はひたすら骨太で説教好きな暑苦しいオヤジ
ヒーロー像は常にその時代の象徴だ。平成ライダーはみなほっそりさわやか系のイケメン揃いで、そのままジャニーズに横滑りしても通用するようなヒーローばかり。そこに70年代テイストそのままの本郷猛(初代の役名)が混じると、濃さが中和されるどころか平成ライダーが本郷猛の濃さをさらに引き立たせる結果となっている。
しかも、もともと肉体派の藤岡弘が恰幅良くなった結果、もうありえないほどごつくなっている。派手な殺陣は出来ないようなのでパンチ主体に闘うのだが、ガタイが凄いので説得力はむしろ若手より上だったりする。60歳過ぎてからの天龍と言えばわかりやすいか。
2.「世界征服なんてくだらない。重要なのは経済だ」
↑のセリフ、米大統領選の一コマで飛び出したものではない。ベテランのショッカー(仮面ライダーと戦う悪の組織)にたいして反旗を翻した若手ショッカーが、リクルートスーツ着た新人の入社(?)式で演説ぶった際のセリフである。ショッカーにも「いまどき年功序列じゃやってけないでしょ」という問題意識のある人材はいるらしい(笑)
もちろん、地道に怖い怪人量産して市民生活に迷惑かけることこそ世界征服の第一歩と考えるオジサンショッカー達にとっては、彼ら若手は面白くない。というわけで、仮面ライダーと新旧ショッカーは三つ巴の戦いを展開していくことになる。
3.ラストメッセージは誰にたいしてのものか
そんなこんなで、一号の大活躍もあって物語は無事に大団円を迎えるのだが、エンドロールが終わるまで席は立たない方がいい。エンドロールの最後に、藤岡御大からの熱きメッセージが控えているから。
「ライダーはずっと君のそばにいる」
ここにいたって、すべての伏線は一つにつながることになる。上記のように、本作品は善悪というよりもジェネレーションギャップが隠れたアングルとしてちりばめられた作品だ。暑苦しく、新しいITツールや価値観に馴染めないオヤジ世代に対し、イケメン若手ライダーを脇に従えグーパンチ一つで「重要なのは経済ですよ」と小難しいことをいう若手ライバルをぶちのめしていく藤岡御大は、まさにオヤジの夢に違いない。
そう、ラストメッセージは45年前に仮面ライダーを目を輝かせてみていた元少年たちへのものだろう。
初代をリアルタイムで見ていた年代は、10歳前後とするといまや55歳前後のいいオヤジである。この年齢はリストラや離婚、持病など、いろいろと山あり谷ありの年頃でもある。藤岡弘を再登板させつつ、そういうオリジナルのファン層にエールを送りたいというのが本作の意図なのだろう。
結果的に、単なる特撮ドラマを越えて大人が楽しめる作品に仕上がっているように思う。というわけで、週末に子どもと映画にでも行こうかと思っているパパには安心しておススメできる作品だ(子供はかなり困惑すると思われるが)。
編集部より:この記事は城繁幸氏のブログ「Joe’s Labo」2016年4月4日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった城氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はJoe’s Laboをご覧ください。なお劇中の画像は東映株式会社の許諾を得てアゴラ編集部で掲載しております。