日銀が2013年4月4日に量的・質的緩和を導入してまる3年が経過した。量的・質的緩和政策とは、量的な金融緩和を推進する観点から、金融市場調節の操作目標を、無担保コールレート(オーバーナイト物)からマネタリーベースに変更し、消費者物価の前年比上昇率2%の「物価安定の目標」を、2年程度の期間を念頭に置いて、できるだけ早期に実現するとした(2013年4月4日に発表された公表文より引用)。
それではこの3年間で、操作目標となったマネタリーベースと、そのマネタリーベースの目標達成のための国債買入やイールドカーブの押し下げ効果、そしてその結果として物価の状況について確認したい。
物価のデータが最新のもので2016年2月のものとなっているため、2013年4月末と2016年2月末の数値を比較した。マネタリーベースは2013年4月末が149兆5975億円、2016年2月末は355兆415億円となっている。すでにマネタリーベースは2倍を大きく超えている。日銀の大量の国債買入などにより、長期金利は2013年4月末が0.6%近辺にあったものが、2016年2月末はマイナス0.05%近辺に低下した。このあたりまでは日銀が想定したとおりか、それ以上の結果であったと思う。
それでは肝心の物価の動向はどうなっているのであろうか。ここでは日銀の物価目標の総合ではなく、ベンチマークとなっているコア指数でみてみたい。全国コアCPIは2013年4月が前年比マイナス0.4%であったのが、2016年2月は前年比ゼロ%となっている。総合もほぼこの数字に近い。念のため、日銀の物価目標は前年比プラス2.0%となっている。
マネタリーベースは2014年10月の量的・質的緩和の拡大もあり、順調に積み上がっている。そして、長期金利は2016年1月のマイナス金利付き量的・質的緩和の導入もあり、一時マイナス0.135%にまで低下した。しかし、いっこうに物価は上がる気配はない。これはどうしてなのか。
これに対して日銀は原油価格の下落を主要因に挙げている。また、2013年4月の消費増税の施行が原因と指摘する向きもある。
コアCPIは2013年4月のマイナス0.4%から翌月5月にはゼロ%に浮上し、そのままの勢いで消費増税がスタートした2014年4月に前年比プラス1.5%まで上昇した。まるで日銀の異次元緩和に即効性があるかの勢いであった。ところが、消費増税スタートのタイミングで急低下する。
2014年4月に100ドル台となっていた原油先物のWTIは2015年1月には50ドルを割り込み半値以下となった。コアCPIについては原油価格との連動性が高いことは当然、日銀も理解していたと思われる。ただし、これほど急激な原油価格の下落は想定していなかったということであろうか。それはつまりマネタリーベースだけ増やしても、このような外部要因により簡単に下方圧力が簡単に掛かってしまうということになり、どれだけマネタリーベースに物価への影響力があるのかという問題も出てこよう。
2013年4月から消費増税がスタートする2014年4月までに物価が前年比マイナスからプラス1.5%に上昇したのは、マネタリーベースやそれによる長期金利の低下が要因であったとは言えない。なぜならば2014年4月以降もマネタリーベースやそれによる長期金利の低下が起きても物価に上方圧力は掛かっていないためである。
それよりも2012年11月頃からの欧州の信用不安の後退のタイミングでのアベノミクスと称された安倍自民党総裁の輪転機発言をきっかけとした円安・株高による影響が大きかったと思われる。ドル円は2012年10月に80円割れとなっていたのが、2013年4月に98円近割れが、2014年4月には102円台となっていた。このドル安により輸入される原材料価格の上昇、消費増税のタイミングでの値上げや駆け込み需要、さらに株高による効果などが相まって、コアCPIはプラス1.5%に上昇したとの見方のほうが適切ではなかろうか。
アベノミクスとそれに実現した異次元緩和は、たしかに円安・株高、長期金利低下をもたらせた。円安などは一時的に物価の押し上げ圧力となったが、マネタリーベースの増加そのものが物価を押し上げていたわけではない。さらにマイナス金利によるイールドカーブの押し下げも同様に直接的な物価に波及する効果はかなり不透明である。日銀はなぜ予想通りに物価は上がらなかったのかを検証した上で、方針転換も必要になるのではなかろうか。
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編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2016年4月5日の記事を転載させていただきました。転載を快諾くだいました久保田氏に心より御礼いたします。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。