【映画評】ルーム

渡 まち子
5歳の男の子ジャックと母親ジョイはある部屋で暮らしている。実は母子は7年間、オールド・ニックと呼ぶ男によって監禁されており、この部屋で生まれたジャックにとっては部屋にあるものが世界のすべてだった。ジョイはジャックに外の世界を見せようと、すべてを賭けて脱出を決意する…。

 

エマ・ドナヒューの小説「部屋」を原作とした衝撃的な感動作「ルーム」。長期間監禁された末に保護された事件は、過去にもあるし、ごく最近日本でも発覚したことから、良くも悪くもリアリティーが増した作品になった。ただ、本作が素晴らしいのは、監禁された部屋から脱出するサスペンスをクライマックスにしていないところである。愛読していた本「モンテ・クリスト伯」にならって死んだふりをして部屋を出た後、母と息子は、隔絶された環境から社会に馴染んでいき、異常な経験を、自分の中で折り合いをつけて消化する。そんな、未来に向かって成長していく細やかなドラマこそが感動的なのだ。母は世の中を一応知っているが、息子には初めて知る世界。周囲の人々も2人に接するには複雑な思いがある。この難しい状況を演じる俳優たちが、それぞれ素晴らしい演技をみせてくれる。鍵となるのは、親子愛だ。それにしてもやはり子どもというのは未来への希望だと改めて感じてしまう。未知の環境にも柔軟に対応し、それを愛することができるのだから。世界を“発見する”息子ジャックと、世界に“戻る”母ジョイ。人生を取り戻した2人を演じ切ったブリー・ラーソン、ジェイコブ・トレンブレイの名演に心を奪われる。小さな窓から見た青い空は、無限に広がる愛なのだ。

【85点】
(原題「ROOM」)
(アイルランド・カナダ/レニー・アブラハムソン監督/ブリー・ラーソン、ジェイコブ・トレンブレイ、ジョアン・アレン、他)
(母性愛度:★★★★★)

この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2016年4月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。