日経とFTの差はどこから?

岩瀬 昇

日経電子版は2016年4月12日1:00に「原油『増産凍結』期待も 市場に3つのシナリオ」と題する記事を掲載した。一方、FT電子版は “Oil extends rally as traders eye Doha meeting” と題する記事を、4月11日4:35pmに報じている。時差を考慮すると、日経記者はFTを読んではいないようだ。

それにしても、と筆者は思う。

日経とFTの記事の差はどこから来るのだろうか、と。

二つの記事は、来週4月17日に予定されているOPECおよび非OPECの主要産油国が参加して開催する予定のドーハ会議に関するものだ。

日経は「産油国が[増産凍結で]合意」、「決裂や会合延期」、「イランは増産、他国は減産」の3つのシナリオを分析、解説している。

内容に異論はないが、ちょっと待って欲しい。

どこから「増産」や「減産」の言葉が出てくるのだろうか?

2月中旬にロシアがサウジに提案することで始まったOPECおよび非OPEC主要産油国の「協調協議」は、「1月の生産水準で凍結」がキーワードだ。誰も「増産」や「減産」について「協議」するとは発言していない。

日経記者は「1月生産水準で凍結」することは、更なる「増産」を止め「減産」することと同義だ、と理解しているようなのだ。

一方、FTの記事の中に出てくる重要なキーワードには “freeze”(凍結)に加え”capacity”(力)”rebalancing”(均衡化)というものがある。これだけでは分かりにくいだろうから少々解説しよう。

前者(capacity)については、次のような文章となっている。

 “most countries already having raised output close to capacity”

(ほとんどの国がすでに生産を能力に近いところまで上げている)

 

後者(rebalancing)は次のような文章として使われている。

 “A production freeze at recent production level would not accelerate the rebalancing of the oil market”

(最近の生産水準で凍結したとしても市場の[需要と供給の]均衡化は促進しないだろう)

 

弊ブログ「155. 主要産油国が『生産凍結』を協議する理由?」(3月17日)で紹介したように、現在、いわゆる余剰生産能力を持っているのはサウジとイランの2カ国に限られるといってよい状態なのだ。ロシアには、もはや余剰生産能力はないと思われる。

この「余剰生産能力」という視点は、現在の原油市場の動静を分析、理解するときに非常に重要なものだ。

また、現在の供給過剰状態がどのようなシナリオで解消に向かうか、つまり「リバランス」がいつ実現するのか、ということがもうひとつの重要な視点だ。

FTの記事にあるように、現在の生産水準で凍結しても、供給過剰状態であることに変わりはない。だが、OPECと非OPECの主要産油国が「協調」して対応するという姿勢が見られると、「リバランス」実現が早くなるのではないか、という市場の期待が強くなってくるだろう、というわけだ。

FTはさらに、今週スイスのローザンヌで開催する “Financial Times Commodities Global Summit” の初日の今日(4月12日火曜日)、プーチン大統領に近いIgor Sechin (ロシア最大の国営石油会社Rosnetのボス)が行うスピーチの内容で、ロシアがドーハ会議にどのような姿勢で臨むのかが伺えるだろう、としている。Sechinは、これまで「凍結協調合意」の実現性に疑問を示していたからだ。

これは興味深い。注目しておかなければ。


編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2016年4月12日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。