広島・核軍縮宣言を評価する

井本 省吾

11日の主要7カ国(G7)による外相会合は、核軍縮・不拡散を訴える「広島宣言」を採択した。原爆投下で広島と長崎は「甚大な壊滅と非人間的な苦難という結末」を経験したと指摘し、世界規模での核兵器削減の努力を訴えた。
これは日本にとっても世界にとっても、望ましい宣言である。今後の世界が進むべき道を示した。

「核なき世界」。口で言うのは簡単で、実際の効果は乏しい。現実主義者はそう思う。私もほぼ同意権だ。だが、だからと言って、無意味だとは思わない。それどころか、折りに触れ時により、こうした宣言がくさびのように打ち込まれることが極めて大切だ、と思う。

「オバマ氏を含めすべての人が広島に来るべきだ。米国に戻ったらオバマ氏に広島での経験を話したい」。ケリー米国務長官は11日のG7外相会合後の記者会見でオバマ氏に広島訪問を進言する考えを表明した。

実際、米政府はオバマ米大統領が5月の主要7カ国(G7)首脳会議(伊勢志摩サミット)の後に被爆地、広島を訪れる準備を始めたという。

日本経済新聞によると、ケリー氏は11日の主要7カ国(G7)外相会合後の記者会見で、原爆資料館を訪問した感想を「はらわたがえぐられるようだった」と語った。原爆の熱線で大やけどを負った子供の写真や、赤ん坊を抱いて走る姿勢のまま焼け死んだ母親の話などが資料館に展示されている。

ケリー氏は「戦争がいかに人々に惨禍をもたらすかを知るうえで、忘れられない経験となった。あの展示を忘れられる人はいないだろう」と指摘した。ケリー氏の原爆資料館の視察は予定を大幅に上回る50分に及んだ。「世界中の誰もが記念館の力を見て感じるべきだ」と芳名録に記帳した。

米国の世論調査では「広島、長崎への原爆投下が太平洋戦争の終結を早め、多くの米国の将兵の命を救った」として原爆投下を正当化する回答が今も60%近い。ケリー氏の広島訪問に際しても「謝罪すべきではない」と主張した米メディアがあった。

ケリー氏単独ではなく、G7外相の枠組みを利用した平和公園訪問という体裁をとったのは、こうした世論に配慮した結果だが、ケリー氏は「戦争は最後の最後の選択でないといけないと思った」という。

ケリー氏は海軍士官としてベトナム戦争に従軍した後、反戦活動に転じた経験を持つが、それだけでこうした発言は出て来ないだろう。それはG7の閣僚に共通する。

核保有国である英国のハモンド外相はツイッターで「核兵器のない世界、争いが対話で解決される世界をつくるために努力を加速しよう」と原爆資料館で記帳した。

エロー仏外相は「広島は象徴的で心動かされる」とツイッターに投稿。シュタインマイヤー独外相は「核兵器のない平和な世界をめざす取り組みを諦めてはいけない」と原爆資料館で記帳した。カナダのディオン外相は「記憶に残り、生産的な広島会合を日本外務省に感謝する」と述べた。イタリアのジェンティローニ外相は慰霊碑の前で子供たちと撮った記念写真をツイッターに投稿した。

もちろん、彼らは十分に現実主義者だ。広島で平和主義を語ることの政治外交的な効果を存分に心得ている。外交辞令であることは確かである。

平和一辺倒でもない。それは声明・宣言に表れている。「広島・長崎は原爆で極めて甚大な壊滅と非人間的な苦難という結末を経験」「政治指導者は広島や長崎を訪れ、深く心を揺さぶられた。他の人々の訪問を希望」と「広島宣言」を出す一方で、「北朝鮮の核実験や弾道ミサイル発射を最も強い表現で非難」する「共同声明」も行った。

また、「東シナ海や南シナ海の状況を懸念。現状を変更する一方的行動に強い反対」と名指しはしないが、明らかに中国の行動を牽制、批判する「海洋安全保障に関する声明」も出している。

平和宣言しようと、平和が来るわけではない。暴力団がいる限り、警察は必要だし、火事に注意するのは当然としても消防署をなくすわけには行かない。

当たり前のことだが、集団的自衛権の行使容認や安保関連法の成立もそこから来ているのだが、日本ではこの当たり前のことがわからなくなる政党や有権者がまだ多い。

平和を希求する気持ちと、軍備・安全保障体制を充実させることは矛盾しないのだ、ということを改めて確認しておきたい。

今回の米国をはじめつするG7各国が広島宣言も、日本が集団的自衛権の行使容認など国際社会に責任を果たす姿勢を示したことを評価したからこそ、実現したと思える。責任ある行動が国際社会に認知されたのだ。