日銀の金融政策は本当に為替に影響したのか?

2012年に80円台だったドル円相場はある時を境に急に円安に転換し、15年6月には125円台をつける円安を演じました。この間、一般に言われるのは日銀の13年4月の「異次元の緩和」や14年10月の「サプライズ緩和」効果であります。日銀の役目はインフレ率や労働市場であって為替は財務省の仕事とされますが、一般には中央銀行の政策が為替に影響しやすいと考えられます。

では、この日銀の緩和効果が本当に円安に導くものであったのか、もう一度考えてみたいと思います。

まず、ドル円の長期チャートを見ると77円台をつけた円高修正の動きが出始めたのは12年9月であります。ここから円は一気に安くなり始めます。その第一弾の動きが一旦収束するのが13年5月で102円台をつけた時点でした。

その頃からドル円相場は一進一退を繰り返します。踊り場相場ともいえました。94円から104円程度の比較的狭いレンジ相場が14年7月まで1年2か月続きます。

それから円安第2波が始まり、15年6月までの約11か月間に125円台まで動きます。この後再び狭い動きとなり12月から本格的な円高へ舵を切っています。

こう見ると13年4月の異次元緩和も14年10月のサプライズ緩和もドル円の大きな波動の真っただ中でそれらの緩和が発表されたことでうまくその流れを押し出す効果があったと言えます。

ではドルユーロをみるとどうでしょうか?ユーロは12年7月を境にユーロ高に転換し14年4月頃までその傾向が続きます。そしてそこから一気にユーロ安へと転換し、15年3月まで続きます。現在はそこからレンジ内の動きとなっており、ユーロドルは比較的安定していますが、ユーロ高のレンジ一杯まで来ていますのでいつこの攻防がブレイクしてもおかしくない状況にあると言えます。

とすれば、まず、円安の第1波である12年9月から13年5月とは何だったのか、でありますが、政権交代期待とその期待通りのスタートを切ったことで行き過ぎた円高修正が行われたと見た方がよさそうです。つまり、日銀の金融緩和に効果はなかったかといえば95円程度から104円ぐらいまで動かす補助を行った形となっていますが、先述の通り、異次元の緩和から1か月後には円高の動きはいったん止まってしまうのです。

では14年10月のサプライズ緩和の場合はどうか、といえば確かに窓開けを伴い5円ほど円安となり、その後も円安が続きますが、この時期はユーロと同様、ドル高と世界通貨安問題があった時期であり、円安に対して更なる強い後押しをしたものの大枠の流れの中での話でありました。つまり、日銀の金融政策そのものが強力な為替への影響は及ぼしたとはいえないのであります。黒田総裁は非常に自信ありげに会見をしておりますが、それは為替の大きな流れの中で「順張り」したのと同じ効果でしかありません。

私が今日、このトピックスを上げた理由はアメリカのルー財務長官が15日に発言した「市場の動きは秩序的」とする意味と今後の動きにどう影響するのか、気になるからであります。

私はドル高が明白になり、ユーロや円安の引き金となった14年の水準が当面の為替水準の一つの目安ではないかと感じています。つまり、ざっくりですが、100円が一つの目安になりそうな気がしております。ルー長官の趣旨はドル安で世界経済をある程度引き上げる効果は十分にあり、世界景気の不安定さからの脱却を図り、且つ、アメリカ国内の活力をさらに高めると言っていることに他なりません。

例えばドル安になれば原油は高くなりますから死にかけているアメリカシェールオイル業界も息を吹き返すきっかけを作ることになるでしょう。つまり、アメリカは政策的に「これは非常に良い動きだ、日本には多少、為替で苦労させるが過去約2年間の為替はボーナスだったと思い、我慢しろ」ということで間違いないと判断しています。

しかし、私にはもう一歩踏み込んだ何かがある気がしてなりません。それはアメリカと日本の外交を考えるにあたり、かつての蜜月関係からやや距離が出ることを暗示しているようにも思えます。アメリカの次期大統領が現候補者の中の誰になろうとも日本には厳しい姿勢が待ち構えているとみています。日本を利するTPPなど言い出す隙間すらありません。もう一つ、アメリカは日ロ関係に釘をさしているのかもしれません。仮に日本がロシアと経済を含めたディールをするならば日本をひねりつぶすと。残念ながらアメリカとはそういう醜い側面を持っています。それ故日本の政府高官は誰もアメリカには逆らえないようになっているのです。

為替100円時代はかなり高い確率で起こりうる事態かと思います。これに日本企業は早く気づき、対策を打たないと再び政府に対する怨嗟の声がこだまするようになるでしょう。折しも1-3月の決算が間もなく発表されます。円高局面に突入してからはじめての四半期決算となります。要注目ではないでしょうか?

再三繰り返しますが、為替は日本単体の政策では大きな流れを変えることはできません。為替を占うにはアメリカがどうしたいのか、そこを読み込むことが最重要となるはずです。

では今日はこのぐらいで。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 4月18日付より