持家選好の金融的費用

住宅を借りて毎月家賃を払うことと、住宅を借金で買って毎月弁済することとの理論的な等価性から検討してみよう。理論的には、借りても、買っても、諸条件の差を調整すれば、同じ費用だということでなければならないわけだが、さて、その諸条件の差の調整は、実務的に、可能なのか。

住宅を貸すという賃貸事業と、住宅を作って売るという販売事業とは、住宅の供給という機能において競合するわけで、市場が十分に効率的である限り、一方が他方に対して著しく有利になる、あるいは不利になるということはあり得ない。

競合するということは、同一機能に対して、利用者の側で、不利なほうから有利なほうへ選好を変化させることを意味しているのだから、そのような利用者の行動が需給を調整させる、即ち、理論価格の均等性のほうへ住宅市場の構造が動いていくはずなのである。

もちろん、持家に対する拘りなどの様々な非経済的事由が住宅市場にはある。しかし、理論的には、そのような非経済的要素は、一種の外部的な条件なので、その条件を調整したところで、経済的等価性がなりたつのだ。

例えば、賃貸の有利性として、自由な転居可能性があるが、この自由な転居可能性という利便性は、経済的な価値として評価できて、その理論価格は賃貸料に織り込まれているはずなのである。ただし、理屈上は、そこまでいえても、その理論値を具体的に算出することが難しいのである。

また、持家選好というものがあるとすれば、その選好によって、賃貸に対して住宅取得の費用が割高になるはずだとはいえても、はたして、どれだけ割高になるかは、よくわからないし、実証も難しい。しかし、持家選好の強かった前世代の人に、持家選好など全くもたない自分を対比させるとき、消費者の選好の変化が住宅市場の構造に大きな影響を与えているだろうことは、疑い得ない。

こうした非経済的な選好も、何らかの仕方で、市場に織り込まれているはずで、そうだとすれば、何らかの方法で測定できていいはずである。少なくとも、市場の動態に影響のあることは、何らかの方法で、つまり、何らかの仮定をおくことで、理論的前提にできるはずだ、あるいは理論的前提としておくべきである。そうした思考様式こそ、金融の基礎にあるべきものである。

 

森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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