TPPでアメリカに振り回されるべきではない

昨年盛り上がったTPP。国内では賛成派と反対派がぶつかる中、自民党は農業関係のリフォーメーションに尽力しました。その努力の甲斐もあってか15年10月に12カ国が合意し、各国が批准する為の作業に入っているところであります。批准するためには2年という時間的枠組みとアメリカと日本が加わらないと発効しないという条件を乗り越えていかねばなりません。

さて、案外すんなり行くだろうと思われた日本のTPPの批准はしょっぱなから結構な苦戦を強いられており、審議は秋の国会に先送りされるようです。今国会は6月1日までで夏の選挙が予定されていることから国会の延長はなく震災関係でも時間が割かれています。更にゴールデンウィークもあることから実質1か月しかないのにこれだけの重要審議を時間枠で決定するのは無理があります。

内閣が批准を急ぐ理由はアメリカが何を言ってくるか分からない、という点でありましょう。ご承知の通り、アメリカの次期大統領候補は全員TPP反対であります。クリントン氏はもともと推進派でしたが今は方針を変えています。一旦NOといった以上、何かアメリカにとって好条件を引き出さない限り公約違反となりますからクリントン氏と言えどもそのポジションを変えるのは難しいでしょう。トランプ氏に至ってはdisaster(大惨事)であるとしています。

が、大統領選挙は11月、そして就任は来年早々ですから秋の国会までにアメリカが何か言ってくる可能性は低いでしょう。あえて言うならオバマ大統領がレガシーとするために大統領選終了後、新大統領就任までの間を突いてサプライズで批准させるというトンデモ案もなくはないですが、現実的ではない気がします。

ところで日本はTPPで最もメリットがある国とされてます。そして、農林部会長の小泉進次郎議員は農業分野こそ日本でもっとも潜在成長力が高いエリアと述べています。これは私も同意します。農業は一般に第1次産業にカテゴライズされますが、加工すれば第2次産業になり、更にレストランなどは第3次産業になります。この1,2,3を足した第6次産業とは第一次産業従事者が加工を含めた付加価値を乗せる新たなる産業とされます。

栃木県は福岡県と並びイチゴ県でありますが、今、このイチゴツアーなるものが若い女性の間で大人気であります。日帰りバスツアーでイチゴ園でイチゴを食べ放題、イチゴ園にはイチゴのスイーツが土産物品として並び、客が行列をなして買って行きます。これなどはかつてない付加価値のつけ方で、農作物を作物として卸すより大幅な利益が出ているはずです。一方、福岡の雄、あまおうは輸出が伸び、5年で1.6倍になっています。

つまり、TPPで最もデメリットが大きいと言われた農業そのものが変革しつつある中でTPPが腰折れすることは日本にとり非常につまらない結果となります。

ところでEUはなぜできたかといえばアメリカに対抗するためでした。最近のアメリカをみていると我儘の度合いがより一層ひどくなってきた気がします。私は数年前のこのブログで世界はブロック経済化するかもしれないと申し上げたことがあります。かつてのネガティブな意味よりもっと域内経済を通じた規模を追求するというものであります。北米には既にNAFTAがあり、非常に上手くワークしています。が、アジアにはまだそのような大枠が存在しません。それは日本と中国の力の関係が一つは大きく影響しているのでしょう。

日本はそろそろ独立国として立ち上がらねばなりません。その中でアメリカに振り回されるTPPではなく、アメリカ抜きのTPPをバックアップとして準備するリーダーとならねばなりません。TPPの12カ国が11カ国になっても台湾、韓国など加入したがる国や地域は多くあります。これがワークすれば正にアジア経済圏の第一歩になるともいえます。将来、アメリカが入りたいといえば「条件を飲むなら入れてやる」ぐらいのスタンスに切り替えるべきでしょう。

私が大学生の時から接し続けているアメリカを見る限り、今のアメリカはかつての精神的繁栄からは遠く、自分たちの進むべく道がどうあるべきか大変革を遂げている最中にある気がします。このような時期には政策が安定せず、右へ左へぶれやすくなります。なぜこうなったか、といえば大規模な世代交代が進んでいるからでありましょう。つまり、アメリカを支える今のヤングアクティブ層(20-30代)がかつての歴史的苦労を体感的に持たないためであります。(これはアメリカに限ったことではありませんが。)

TPPそのものが最も必要なのはアジアであります。ならば、今の日本に必要なのは明白なるリーダーシップであり、東南アジアを中心にうまく取りまとめる能力ではないでしょうか?そんな中で西川文書なるものが理由で国会が空転するというのはTPP特別委員会、委員長である西川氏の資質そのものが疑われてしまいます。小銭を稼ぎたくて本を出版しようとしたのなら言語道断。委員長は降りるべきでしょう。

TPPは日本が成長する為のエキスが含まれています。これを潰すようなことがあってはならず、甘利さんの苦労を無駄にしないようにすべきでしょう。

では今日はこのぐらいで。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 4月20日付より