北海道5区補選、見応え薄れても本番はここから

新田 哲史

※本編に先立ち、熊本の地震で被災された皆様に心よりお見舞い申し上げます。また、お亡くなりになられた皆様、遺されたご家族の皆様に謹んでお悔やみ申し上げます。


どうも新田です。安倍総理がダブル選挙の判断材料にするとみられていた衆議院北海道5区補選ですが、肝心要のダブル選挙が熊本地震の影響により、見送られる方向になりました。同日選見送りを最初に報じた産経新聞さん、特ダネおめでとうございました。最初は「フライングかな」「政局報道が無敵な読売が書けば確定」と半信半疑でしたが、やはり、熊本の惨状がここまでとなると、同日選見送りの判断は妥当と思います。

伯仲したのに「前哨戦」の意義が薄れた補選

さて、そうなると、「前哨戦」として与野党総力戦の様相を呈していた衆院北海道5区補選ですが、全国的な関心としては薄らぐのは避けられそうにありません。

当初は、自民・公明に対する民進・共産「連合」が勝つことになるのか、単純計算では、参院選の1人区を中心にそれなりの戦果が見込めるデータがあるということもあり、まさに試金石でした。

世間一般はともかく、永田町界隈とマスコミだけはそれなりに盛り上がったのは、「空中戦」のネタには事欠かなかったことでしょう。

与党候補の和田義明さんに対して「エリーチ気質が出ていてタマが悪い」だの、「町村さんの婿になったのに苗字を変えない」だの、ネット上では、日刊ゲンダイあたりのネガティブキャンペーン記事が拡散。リアルはリアルで、野党陣営の池田まきさんを応援するSEALDsがラップ調で「戦争反対」を叫びながら、国政選に初の本格参戦。そして与党陣営には、北海道知事選を視野に復権を画策しているとの噂が絶えない北の大御所、鈴木宗男さんの第三極ムネオ票がどこまで威力を発揮するのか、などなど話題になりました。

まあ、もともと、地域的には、旧民主党や共産党が根強く、前回の選挙戦も「民共」で単純合算すれば故・町村さんの票を上回るほどの地力があるわけですが、それなりに盛り上がった効果もあり、政界や選挙業界では当初、「選挙スタート時点で池田陣営が和田陣営に追いついたが、自民党が危機感を感じて全国からの応援に総力を結集し、再び引き離しつつある」という見立てが、水面下の情勢調査の数字とともに(真偽はともかく)囁かれていたところでの熊本での震災でした。

各社週末の情勢調査おさらい。踏み込んだのは意外な新聞社

国政選や知事選は最終週に入る前の最後の週末の情勢調査報道がポイント。「態度未定の層がいる」などといった記述で逃げ道を残すのは、ある種の様式美と思って結構。7割がたはそのシナリオで各社とも見ているというのが通常の選挙報道のケースです。今回の主な各社の調査記事はこんな感じでした。

(北海道新聞)和田氏、池田氏譲らず 投票先未定2割 北海道5区補選本社世論調査

(共同通信)衆院補選、北海道は与野党横一線 京都は民進リード、情勢調査

(朝日新聞)池田氏・和田氏競り合う 衆院補選北海道5区、情勢調査

 

このあたりの3社は、まあ、日頃の論調ポジションがアレなので、とりあえず「伯仲」ということになっております。面白いのは、日経が踏み込んできたこと。

(日本経済新聞)北海道で自民やや優勢 衆院2補選、京都は民進リード

 

個人的に聞いていた話の感覚値に日経が一番近かったので、読み込んでみたんですが、選挙序盤は、勢いづいているように見えた池田陣営が、なぜ日経調査では「劣勢」なのか、なるほどと思ったのがこちらの分析。北海道は農業王国にして、リベラルな気風が強い風土なので、アベノミクス、TPP、安保法制に関する政治的態度は推して知るべしで、批判的・反対的な人が上回っているはずなんですが、池田支持になっているかというと・・・。

アベノミクス、TPP、憲法改正とも批判的な勢力の半分程度しか池田氏の支持につながっていない。野党4党が廃止法案を出した安全保障関連法も「廃止すべきだ」と答えた人のうち、池田氏支持は6割程度。政権批判票の受け皿になれていないのが実態だ。」出典;日本経済新聞 4月18日朝刊「野党、北海道で無党派浸透に課題 自民は政権支持層固める」

選挙のプロの定性分析もチェック

定性的に、選挙のプロの目からみても、池田陣営のキャンペーンには微妙なところがあるようにも思えます。選挙プランナーの大御所、三浦博史御大は、選挙序盤から池田陣営を応援する人たちによる和田陣営へのネガティブキャンペーンに対して疑義を呈した上で、こう喝破されておりました。

「有権者にとって、その地域の代議士として、どちらの候補の資質や政策ががいいのかを論ずるのがまず先にありきでしょう。その上で様々なネガティブキャンペーン等も、もちろんありだとは思いますが、池田候補の戦術は同情票を狙うものが目立ちすぎます。変化球ばかりの戦術は私は勝てないと思います」出典;選挙プランナー三浦博史の選挙戦最新事情4月15日「北海道5区の行方」

三浦御大は与党系の選挙を数多く手掛けられていることで知られます。なので、野党サイドからは「ポジショントークだろう」という向きもあるでしょうが、では、ニュートラル、ややリベラルな立ち位置でのアナリストはどうでしょうか。選挙当初、池田陣営のプロモーションビデオのクオリティーが和田陣営を圧倒していると論評していたネット選挙のスペシャリスト、高橋茂さんですが先ごろ、現地入り。選挙ドットコムのレポートでは、池田陣営の街頭運動の「特性」について、こう指摘しております。

「ほとんど年配の方たちだったことは良いのだが、「戦争法廃止」の大きな看板を立てて、なんと童謡の替え歌をみんなで歌い始めたのだ。勝手にアコーディオンを弾き出すお爺さんもいる。典型的な「悪い市民運動」型の選挙になっているのではないか」出典;選挙ドットコム【現地レポート】激闘!北海道5区補選は異種格闘技(前編)  

詳しくは記事をお読みいただければと思いますが、かの田中康夫・長野県知事誕生を実現した高橋さんは、田中氏当選を支えた勝手連が「市民運動臭」を戦略的に消していた当時と比較しながら説得力のある論評をされております。

選挙の票読みは、NHKの終盤の出口調査の裏データから大体見えてくると思いますが、なぜか出回るこの「裏票」やら、自前調査の動向をにらみ、陣営首脳部は残り3日と数時間、胃をキリキリさせながら、壮絶な追い込みをかけていくことでしょう。「前哨戦」としての価値は参院選のみとなって半減してしまいましたが、引き続きヲチしております。そういや、群馬の「政変」は書きがいがあって面白いんですが、それはまた後日。ではでは。

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アゴラ編集長/ソーシャルアナリスト/企業広報アドバイザー
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