ビッグデータとデータベースの知財問題

知財本部「次世代知財システム検討委員会」。
TPPも決着し、「ソーシャル化=スマホ+クラウド+ソーシャル」の次、ビッグデータやAIやIoTといった大波が来ることを受け、知財問題をどうとらえるかという問いです。

KADOKAWA川上さんが著作権制度を「アメリカと同じにする」ことを提案しました。冗談ぽいが、TPP合意もあり、ぼくはマジに受け止めるべきと考えます。EUと同一、でもいい。次世代の知財は、日本独自の制度を維持することの意味を問うべき。国内制度とグローバルの整理。大論点。しかしこの議論を政府としてどう扱うか。冒頭から荒れ模様です。

まずはビッグデータとデータベース、BDとDBについての議論が始まりました。川上さんと東大・喜連川さんから、データベースの「創作性」を問い直す問題提起。ネット+AIがどんどんデータを作っていく時代、創作性によって保護する意味とは。過去30年間の著作権制度を脱却する議論に発展しそうです。

ビッグデータ論議。知財事務局が攻めます。テーマは3点。1)完全権利制限、報酬請求権付き権利制限、集中管理など既存の政策に加え、拡大集中許諾などの新しい制度も整備する。2)権利制限規定に柔軟性を確保した規定を導入する。3)分野ごとの集中管理を促進する。

これまで著作権制度に関わってきた人からみれば、ビックリする大胆な提示です。さて、この方向で進めてよいか。

福井さん:方向性に賛成。コンテンツの大量生産、ステークホルダーの増大、利用の多様化というネット化による環境変化を踏まえ、従来の少数による許諾システムが機能不全を起こし、処理コストを下げる多様な手段を構築すべき。でなければ世界的に劣後する。
→この議論を進める理由をこのように整理することが、まずもって重要。なぜ今この議論をするのか、この議論がどう重要なのか。それを示す必要があります。

田村さん:文化庁はニーズの積み上げによる議論を進めている。知財本部は理論先行で将来展望をしている。その両者の歩み寄りが重要だ。
→内閣官房知財本部と、法律を所管する文化庁は総論と各論の関係。その両輪がうまく回るよう、運営にも気を配りたい。

瀬尾さん:全ての整理を著作権法に詰め込むことはムリ。それ以外のシステムを含む制度を作るべき。完全権利制限、報酬請求権、裁定制-民間委託、拡大集中許諾、集中許諾・・・

→知財本部には政府全体の政策を方向づける役割もあります。著作権法だけの問題であれば文化庁が掘り下げればいい。内閣官房の委員会としては、著作権法だけでなく、いろんな制度や仕組みを動員する総合政策を目指したいです。

喜連川さん:オボカタ問題は学界として恥である。これをビッグデータやデータベースの観点でどう問いただすのか。問題提起する。

→先生、どうしましょう。

水越さん:制度がどうであれ、企業がリスクを取らないという問題は、教育にも起因する。リスクテイク、交渉など、教育も考えるべき。

→制度にできることはごく一部。教育を含む社会システムとして考える必要があります。政策としてパンチが効かないのが悩みどころです。

赤松さん:次世代の知財というと不安がるクリエイターもいる。そういう層にいたずらに不安を与えない工夫も必要。

→従来の権利を切り下げたりすることはないので、そうした当然のこともメッセージとしては必要なのでしょう。

「次世代知財システム」が今なぜ重要か。それは著作権法を含む総合政策であり、教育問題でもある。もちろん従来の権利が切り下げられることはない。という「総論」をしっかり組み立てる必要があると感じます。


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2016年4月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。