サウジの副皇太子Mohammad bin Salman(MBS)が、今年の初めに英経済誌 “The Economist” とのインタビューで、その意図を明らかにしていた経済改革案が、本日サルマン国王を含む閣議で承認され、本日中にもMBSがテレビで詳細を発表すると伝えられている。石油に依存しない経済体制を構築するために、補助金削減、新規課税などに加え、サウジアラムコの株式を最大5%まで国内株式市場に上場し、得られる資金などで国家資金ファンドを創設し、石油産業以外の産業育成を目指す内容になるものと思われる。
石油価格の動向に関わらず、豊かな国家を形成するための方策との触れこみだが、2030年までの10数年間にどの程度のことができるのか、非常に興味深い。
一方で、2016年4月23日に “The Economist” が ”The New Oil Order” と題して本件を伝えている中で、主な「障害」として指摘している次の人々の存在をどのようにクリアできるのか、こちらにも注目する必要があるだろう。
・この野心的な計画を実行するにはあまりに弱体な政府役人たち
・強力だが一枚岩ではない王族たち
・超保守的な宗教指導者たち
働かなくても民間をはるかに上回る収入が保証されているのがサウジの役人たちの実態だ。実務は「出稼ぎ外国人」たちが担っている。今回の “Vision 2030” も、米国のコンサルタントたちが作成したものだろう。
このようなサウジの役人たちに、MBSのこの野心的な企てが実行できるのか、というのがThe Economistの指摘だ。
また、何らかの合意を期待してドーハに集まっていた18カ国の石油大臣たちを幻滅させたMBSは、サウジ政府のテクノクラートとして最も有能だと海外から高く評価されていたナイミ石油大臣の威厳を完全に失墜させてしまったことは皆さんもご存知の通りだ。ナイミが石油大臣として残ったとしても、もはや有効な政策を実行に移すことはできないだろう。交代させなければならない。
MBSは、“Vision 2030” を実行に移すにあたり、当面の石油政策の実行部隊の長である石油大臣を誰にやらせることを考えているのだろうか。
そして “Vision 2030” を実行に移す過程で、これまでの王族メンバーに対する諸々の処遇は維持するのだろうか? 一般国民には「負担増」を要求しても、王族メンバーは従来通りの処遇が維持されるのだとしたら、やはり原油価格を押し上げ、当面の国家収入を増やす必要があるだろう。
なお最近伝えられている「新油田」からの生産開始(5月)は、現在の生産量(および余剰生産能力)を維持するために必要なもので、追加能力増強ではないことに留意が必要だ。見落とされがちだが、生産量あるいは生産能力を「現状通りに維持する」ためにも、巨額の資本投資が必要なのだ。
これらはすべてサウジアラムコの有能なテクノクラートたちがマネージしている。
また女性の社会進出や外国資本の大々的導入など、”Vision 2030” を実行することにより社会規範が大きく変化する可能性があることに、超保守的な宗教指導者たちはどのように対応するのだろうか。
明日には判明しているだろう詳細を、いっときも早く見たいものだ。
編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2016年4月26日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。