エコノミスト誌「サウジアラビア:脱石油後の未来」

4月25日に発表された “Vision 2030” とも称される ”National Transformation Plan”の内容を踏まえて、英誌「エコノミスト」が掲題を報じている。”Saudi Arabia’s post-oil future” (Apr 26, 2016) と題するリヤド発の記事だ。

結論だけ言うと、5月末あるいは6月初めに発表される詳細な具体策をみないと、モハマッド副皇太子(MBS)の極めて大胆な、野心的なこの計画の実現可能性については確信が得られない、ということと、同誌が4月23日に「新石油秩序(The new oil order)」と題して報じた記事の中で書いた懸念材料をふたたび指摘している、ということにつきるのではなかろうか。

懸念材料とは、弊ブログ168「サウジアラビア改革案 “Vision 2030” を閣議承認」(4月26日)で挙げたように、次の三点の阻害要因だ。

  • この野心的な計画を実行するにはあまりに弱体な政府役人たち
  • 強力だが、一枚岩ではない王族たち
  • 超保守的な宗教指導者たち

政府役人たちとは、本誌が紹介しているサウジ人コメンテーターの当該計画に対するコメント、「父親が40歳の息子に、外に出て仕事を探す時期だな」という言葉に代表されるように、サウド家の統治に忠誠を誓うことの見返りに、働かなくても温情厚い取り扱いを受けてきたサウジ人たちそのものである。1973年の第一次オイルショックで豊かになって以来、すでに40年以上が経過しているから、いまの40歳までのサウジの人たちは、生活のために汗水流して働くといった経験をほぼしていないのだ。

改革案はMBSが大枠を示し、高額の報酬を得ている選りすぐりの米人コンサルタントたちが作成したものだろうが、実行に移すのは政府役人たちだ。彼らがその気になるか、その気になったとしても案を実行に移す能力があるかどうか、大いに疑問だ。

また民営化は「金儲け」のチャンスだ。ソ連崩壊後のロシア石油産業民営化の過程で何が起こったのかは記憶に新しい。王族たちを中心に、しのぎをけずる争いが起こるのはほぼ間違いが無いだろう。

さらに油価低下により国家収入が減り、王族に対し国家が供与する便宜内容が低下するとなれば、王族間の不和はますます高まるであろう。スディリセブン偏重へのリーパーカッションは大きなものとなるだろう。

当該記事は、これらの大胆な野心的計画を実現するためには、国家として次の分野での対外開放が必要だ、と指摘している。すなわち、(1)貿易、(2)投資、(3)外国人来訪者、(4)行動規範、すなわち透明性を高め、イスラム法ではない一般法の尊重。

サウド家による政教一致の国家統治を裏で支えてきたサウジの超保守的宗教指導者たちは、これらの「対外開放」にどのような対応をするのだろうか? たとえば女性の社会進出をどこまで認めるのだろうか。ちなみにこの記事では、女性の自動車運転が許可されることはないだろう、としている。

もうひとつ気になるのは、当該計画は「油価30ドル」を前提にしている、とMBSが説明していることだ。「油価30ドル」では、今年の予算赤字額は計画よりも膨れあがる。サウジアラムコのIPO時期は未定だし、IPOによって得られるだろう資金をSWFに集め、SWFから投資を行うことにより非石油の収入増を図るとしても、はたして何年後のことになるのやら。

さらに「エコノミスト」誌は、同じような試みはこれまでにも何度もあったが、油価が上昇すると忘れさられてきた、だが今回は油価低下が長引くだろうからその心配はない、むしろ30ドル以下になったらどうするのか、とコメントしているが、これは如何なものだろうか。

油価は、今後リバランスが進むにつれ、ゆっくりとだが必ず上昇基調に転ずる、と筆者は判断しているが、果たしてどうなるのだろうか。


編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2016年4月28日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください