大統領ポストと「銃」と「喫煙」

オーストリア大統領選の決選投票は来月22日、極右政党「自由党」で第3国会議長のノルベルト・ホーファー氏(45)と「緑の党」のアレキサンダー・バン・デ・ベレン前党首(72)の2人の野党候補者の間で行われることになった。

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▲次期オーストリア大統領に最も近い政治家ホーファー氏(左)=自由党の公式サイトから

両候補者の政治信念は右と左で全く正反対だ。ホーファー氏は第1回投票でトップとなり、決選投票でバン・デ・ベレン氏との戦いが決まると、「思想的には全く違うから戦いやすい。自分は自身の信念を国民に説明していくだけだ」と述べる一方、「緑の党」前党首は「極右(自由党)の政治家をわが国の大統領にしてはならない」と強調し、反ホーファー宣言を表明している。

バン・デ・ベレン氏は第1回投票で大きくホーファー氏に水を開けられたが、出身党の「緑の党」に社民党と「ネオス」の支持を得て反ホーファー陣営を築けば、得票率で50%を超え、自由党大統領の誕生を阻止できると見積もっている。オーストリアのメディアも決選投票ではバン・デ・ベレン氏が逆転できる可能性はまだあると予想している。

ホーファー氏は第1回投票で得票率35%を越え、自由党としては連邦レベルの選挙では最高率を達成した。本人は「決選投票は全く白紙からスタートだ」と決意を新たにすれば、反ホーファー陣営は、「ホーファー氏はシュトラーヒェ党首のマリオネット(操り人形)だ」と指摘し、ホーファー旋風の阻止に躍起となってきた。

ホーファー氏はシュトラーヒェ党首とは違い温和で新鮮なイメージがあって、党を超えて国民の間で人気は高い。同氏は、「自分は自由党党員だが、大統領選はホーファーという人間の選挙戦だ」と指摘し、オーストリア国民全ての大統領を目指すと述べている。

大統領選の最大の争点、難民問題ではホーファー氏はオーストリア・ファーストを標榜し、国境警備の強化など厳格な難民政策を主張する一方、「緑の党」のバン・デ・ベレン氏は人道主義的観点から難民受入れを支持している。

オーストリアでは昨年9万人の難民が殺到した。経済難民の受け入れに反発する国民の声が高まり、ファイマン政権も次第に自由党の路線に近づいてきている。ホーファー氏は難民政策でバン・デ・ベレン氏を追い込む意向だ。

ちなみに、欧州の極右政治家の代表だったイェルク・ハイダー党首が率いていた自由党が2000年2月、シュッセル連立政権に参加した時、欧州連合(EU)はオーストリアに対し制裁を科したことがある。バン・デ・ベレン氏は、「ホーファー氏が大統領になれば、わが国は再び欧州内で孤立する」と国民に警告を発している。

ホーファー氏はパラシュートの事故で脊髄をやられ、歩行には杖が必要だ。同氏は銃を所持している。身辺の安全のためという。一方、バン・デ・ベレン氏は喫煙家で有名だ。環境・健康問題で喫煙が良くないと分かっているがやめられない。同氏が笑うと、黄色くなった歯が見える。同氏は経済学者で穏やかな紳士と言ったイメージがあるが、思想的には「緑の党」内でも左派に属する知識人だ。同氏は大統領選出馬直前、同棲相手と再婚している。

愛煙家で左派政治家バン・デ・ベレン氏と銃を保持する極右政治家ホーファー氏の間で大統領府入りの戦いの幕が切って落とされた。どちらに軍配が挙がったとしても、4週間後、オーストリア初の野党出身大統領が誕生する。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年4月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。