4月FOMC、6月利上げの観測気球打ち上げず

安田 佐和子

4月26〜27日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)では、予想通りFF誘導金利目標の据え置きを決定しました。今回の声明文では労働市場の文言を上方修正させ、世界経済と金融市場がもたらすリスクについての一文を削除しています。ただタカ派寄りへシフトしたわけでもなく、経済成長の表現は下方修正されました。インフレも「回復した」との文言を外し、「注視する」項目としてはインフレの他に世界経済と金融市場を盛り込み、利上げに急いでいないスタンスがにじみ出ています。市場関係者の間では6月利上げ観測が後退、株高・債券高・ドルほぼ変わらずで反応。特に米債は10年債にて、2014年以降で最長となる7営業日続落の記録にブレーキが掛かりました、

声明文の主な変更点とポイントは、以下の通り。

【景況判断】
前回:「経済成長は、世界経済と金融市場の動向にも関わらずゆるやかなペースで拡大した」、「力強い就労者数を含む直近における一連の指標は、労働市場がさらに強まった可能性を示す」

今回:「経済成長が鈍化したように見えるものの、労働市場の動向は一段と改善した」
※米1-3月期国内総生産(GDP)速報値の発表を控え、アトランタ地区連銀は0.6%増の試算を弾き出し2015年10-12月期から鈍化する公算。ただし世界経済と金融市場は懸念が後退、VIX指数は一時2015年8月以来の水準まで低下した。

前回:「家計支出と企業の固定投資は緩やかなペースで増加した

今回:「家計支出は緩やかとなったが、実質所得は堅調なペースで拡大した」
※ガソリン価格が一時2009年以来の水準まで下落しインフレも鈍化したため、実質ベースでは増加したと考えられる。前回:なし

今回:「消費者センチメントは高止まりした」
※米4月ミシガン大学消費者信頼感指数・速報値のほか、米4月消費者信頼感指数はそろって低下したとはいえ足元のレンジ内で推移。

前回:「住宅セクターは一段と改善したが、企業の固定投資や純輸出は軟調だ」

今回:「年初来から住宅セクターは一段と改善したが、企業の固定投資や純輸出は軟調だ」
※住宅市場は主力の米3月中古住宅販売件数が2007年以来の高水準を視野に入れたように堅調である一方、米3月耐久財受注米2月貿易赤字をみると企業の設備投資を表す機器投資や輸出動向に回復の兆し見られず。

前回:「インフレは足元数ヵ月で回復したものの、エネルギー価格の下落や非エネルギーの輸入品などの低下を受け委員会の長期的な目標値である2%を下回った水準を続けている」

今回:「インフレは、以前にみられたエネルギー価格の下落や非エネルギーの輸入品などの低下を受け委員会の長期的な目標値である2%を下回った水準を続けている」
※米3月消費者物価指数(CPI)をはじめ、輸入物価や生産者物価指数など3月のインフレ指標が弱含んだため「足元数か月で回復した」との表現を削除。

【統治目標の遵守について】
前回:「しかしながら、世界経済と金融の動向はリスクをもたらしうる」

今回:なし

※ダウが2015年5月につけた最高値を意識するまでに切り返し、原油先物も約半年ぶりの高値へ戻し、ドル高も一服し、VIX指数も2015年8月以来の低水準を示し世界経済や金融市場への懸念は後退。

前回:「委員会は、インフレ動向を緊密に注視し続けていく」

今回:「委員会は、インフレ動向のほか世界経済と金融市場の動向を緊密に注視し続けていく」
※米大統領選動向や欧州連合(EU)の離脱を問う英国民投票を控え、低インフレへの警戒に加え世界経済や金融動向を追加。

【政策金利について】
今回:変更なし「こうした背景をもとに、委員会はFF金利誘導目標を0.25~0.50%で据え置くことを決定した。金融政策は緩和的であり続け、それによって労働市場における一段の改善とインフレ目標値2%の回帰を支援する」
※経済見通しには世界経済あるいは金融市場からリスクが控えるため、文章を調整。

【票決結果】
票決は1月こそ全会一致だったものの、3月に続きカンザスシティ地区連銀のジョージ総裁が25bpの利上げを目指し反対票を投じた。輪番制である地区連銀の総裁は、カンザスシティ連銀のジョージ総裁、セントルイス連銀のブラード総裁、クリーブランド連銀のメスタ―総裁、ボストン連銀のエバンス総裁へ交代した。なお2015年は1月、3月、4月、6月、7月と5回連続でゼロ、リッチモンド連銀のラッカー総裁が利上げを目指し反対票を投じた9月と10月を経て、12月はゼロに戻った。

ジョージ総裁、カンザスシティ連銀のDNAを受け継ぐタカ派の急先鋒。


(出所:Federal ReserveOf Kansas City)

FOMC声明文の変更を受けて、ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)紙はFed番であるジョン・ヒルゼンラス記者ではなくデビッド・ハリソン記者による「Fed、利上げに急がないサインを点灯(Fed Signals No Rush to Raise Rates)」と題した記事を配信。低インフレに加え、BREXIT懸念から6月利上げに及び腰との見方を示す。

JPモルガンのマイケル・フェローリ米主席エコノミストは、声明文を受けて「懸念は後退、されど急がず(Less worry, but still no hurry)」と題したレポートを配信し、2回目の利上げが急務ではないとの認識を明らかにした。声明文では世界経済と金融市場の動向が「もはやリスクと捉えていない」ものの、「『注視する』対象に盛り込んだ」と指摘。労働市場の表現を上方修正するなど楽観度を保ったが、消費をはじめ経済の鈍化に言及しており「6月利上げの可能性は以前より低下した」と判断する。経済見通しのリスク評価を特定しなかった背景としては「参加者の間で、意見が分かれたのだろう」と予想した。同エコノミストは、7月利上げの可能性を見込む。

大和キャピタル・マーケッツのマイケル・モラン米主席エコノミストは、リスク評価の判断先送りに対し「利上げの必要性に迫られていないことの表れ」と分析した。6月利上げの可能性をにらむものの「経済成長の文言を読み解くと、利上げに一段の拡大ありきとの姿勢が透けて見える」と指摘。6月に利上げ第2弾を決定するためには、インフレを含め予想以上の数字が並ぶ必要があるとの認識を示した。

――FF先物市場では、FOMC後に6月利上げ織り込み度が21.1%と前日の21.6%から低下しました。米3月雇用統計が発表された4月1日の24%、3月FOMC直後の37.8%からは、大きく後退しています。逆に9月20~21日開催のFOMCの織り込み度が48.5%と、4月1日時点の47.7%から上昇しており、市場関係者の予想が9月へシフトしてきた様子。まるで2013年や2015年のデジャビュ、いつか来た道のようですね。

タカ派寄りで知られ2回連続でFOMCにて利上げを狙い反対票を投じたカンザスシティ連銀のジョージ総裁をはじめクリーブランド連銀のメスター総裁、フィラデルフィア連銀のハーカー総裁といった名前以外に、中立派も最近になって利上げの必要性を唱えていました。例えば均衡実質金利のレポートを執筆したサンフランシスコ連銀のウィリアムズ総裁や、アトランタ連銀のロックハート総裁など。ハト派寄りと目されるボストン連銀のローゼングレン総裁に至っては年1回の利上げを織り込む市場に対し「悲観的過ぎる」と発言していたにも関わらず、Fedは慎重な政策運営を選択した格好です。6月利上げの選択肢を強調しなかった背景としてBREXITと米大統領選以外に、成長鈍化のリスクを見据えているのでしょう。翌28日公表の米1-3月期GDP速報値が市場予想以下と考えられ、4-6月期も直近では1%割れが意識されるとあって、6月利上げには現実味が乏しくなってきたようです。

(カバー写真:Federalreserve/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2016年4月28日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。