聴覚障害者にメロディーを伝えるサウンド・シャツ

聞こえない人(聴覚障害者)の世界には音楽は存在しない。厳密にいえば、打楽器のバスドラムの音は体がその振動をキャッチできるが、メロディーは伝わってこない。聴覚障害者がディスコでダンスを踊れるのは、太鼓の振動を受け止めいるからだが、オーケストラが奏でるクラシック音楽を聴くことはできない。彼らには楽聖ベートーヴェンの音楽もモーツァルトのオペラも楽しむことが出来ない。聴覚障害者はメロディーのない世界で生きてきた。

その聴覚障害者に朗報が届いた。「音楽は全ての人に共有されるべきだ」という願いのもと、聞こえない人にも音楽が享受できるようになるシャツが開発されたのだ。ドイツのハンブルクの交響楽団(Junge Symphoniker Hamburg)が半年かけて音を伝える“サウンド・シャツ”を開発したという。

聴覚障害者がそのシャツを着てオーケストラの音楽を聞くテストが先日行われた。ハンブルクの交響楽団のビデオを見れば分かるが、音楽を知らなかった聴覚障害者がサウンド・シャツを通じて伝わるメロディーに驚き、喜びを表しているシーンが映っている。

Sound Shirt と呼ばれるシャツは音を繊細なバイブレーションで体に伝えることが出来る。その魔法のシャツは聴覚障害者にメロデイーを伝える、という仕組みだ。sound-shirt.com クリック!

もう少し説明すると、マイクロフォンがオーケストラの各楽器の音をキャッチし、それをソフトウエアがデータ化し、コートレスのシャツに伝える。シャツには16種類の精密モーターと発光極管が縫い込まれている。音楽の強弱に従って反応する。例えば、腹部にはバスドラムが、腕はバイオリンの音がキャッチできるようになっている、といった具合だ。それによって、オーケストラのメロディーが伝えられるわけだ。

サウンド・シャツを着て交響曲を試聴した聴覚障害者のビデオを見た同じ聴覚障害者たちにも大きな反響を呼んでいる。ハンブルクの交響楽団のビデオを見た人々から驚きと感動のメッセージが届いている。

若い聴覚障害者は、「僕はこれまでバスドラムの音しか聞こえなかったが、サウンド・シャツで一度メロディーを聞いてみたい」というコメントを送信している。

オーストリアでも国会の演説や大統領の新年の挨拶などは聴覚障害者の為に通訳が付くが、テレビや映画フィルムで聴覚障害者のために下書きが付いているのはまだ数少ない。聴覚障害者の現実はまだまだ厳しい。そのような中でサウンド・シャツの登場は文字通り、歴史的な発明だ。メロデイーが聴覚障害者の世界に届いたのだ。

聴覚障害者に音楽を伝える努力してきた関係者には頭が下がる。サウンド・シャツがさらに改良され、聴覚障害者が簡単に着用できるようになればどんなに素晴らしいことだろうか。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年5月3日の記事を転載させていただきました(タイトル改稿)。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。