この記事を読んだ時、「人間はどこまで悪くなれるのか」と考えてしまった。オーストリアの二―ダーエステライヒ州で飼い主が犬の首輪に石を入れた袋をケーブルでつなぎ、犬を川(March)に投げ捨てる、という事件が起きた。幸い、その犬(推定3歳)は自力で川の浅い所まで浮き上がって助けが来るのを待っていたところ、発見されて動物保護ハウスに引き取られたという。


▲救助された犬を写真付きで報じる日刊紙「エステライヒ」5月2日

日刊紙エステライヒ紙は2日付に助けられた犬の写真を掲載していた。犬はボーッとした表情で前方を見ていた。多分、彼は自分に何が起きたのか理解できず、混乱していたのではないだろうか。数時間前まで飼い主と思い、忠実に従っていたが、突然、石を入れた袋が首輪につながれ、川に捨てられたのだ。飼い主には明らかに殺意があったと断言せざるを得ない。

面白半分の所業ではない。石の重みで犬が川底から浮き上がれないように計画していたのだ。「なぜ……?」「自分に落ち度があったのか?」。犬はきっと何度も自分にこのように問いかけていたはずだ。

脚光を浴びる『猫』の活躍」(2014年5月18日参照)で猫の活躍ぶりを紹介するとともに、「猫の株が急上昇してくる一方、犬の評判が下がってきた」と嘆いたコラムを書いたが、評判だけではなく、犬にまつわる悲しい話が少なくないのだ。

都会生活をしていると、犬を飼うことは難しくなってきた。犬には自由に飛び回る空間が必要だが、庭付きのハウスではなく、アパート暮らしの都会人は犬を飼えない。友人や知人が夏季休暇に出かける時など、彼らの犬を数週間、お世話することで犬を飼えない寂しさを紛らわすだけだ。散歩も都会では容易ではない。犬自身が車や騒音で神経質となってしまう。そのためか、都会で、犬に代わって猫が愛され出したのは当然の結果かもしれない。猫は自分で日常生活をオーガナイズするから、飼い主が散歩する必要はない。要するに、猫は犬より手間がかからない。

話を元に戻す。警察当局は動物愛護関連法に基づいて犬を川に捨てた飼い主を捜している。飼い主は犬を川に捨てた後、溺れる犬を見たかったのだろうか。自宅で飼えない事情が生じたのならば、動物保護ハウスに持っていけば引き取ってくれる。どうして愛犬を殺そうとしたのだろうか。

犬の心理は非常に繊細だ。一度、悲しいことを体験すると、いつまでも忘れることが出来ない犬がいる。心的外傷後ストレス障害(PTSD)に悩むのは人間だけではない。過度のストレスを強いられる警察犬が通常の犬の平均寿命より短命なのは、そのストレスが影響をしているからだといわれている(「なぜ、警察犬は短命か」2012年5月22日参照)。

救助された犬が悪夢から解放され、いい飼い主が見つかることを願う。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年5月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。