サウジ:外交政策が石油政策の重要要素に

FTの副編集長であるMs.Roula Khalafが “Regional politics likely to take bigger role in Saudi oil policy” (May 8, 2016 11:16am)と題して、興味深い論考を書いている。筆者の興味関心にしたがって内容を紹介すると、次のようになる。

なおMs.Khalafは、アフリカや中東の専門の御仁のようだ。


ナイミ石油相の退任は、本人(81歳)が予てより引退を希望しており、何年も前から既定路線で、問題は「いつ」ということだけであった。

サウジの常としてはっきりとしたことは分からないが、4月17日の「ドーハ会議」にナイミは、イランが増産を継続していても「生産量据置」で合意すべく参加していたのだが、モハマッド副皇太子(MBS)により土壇場でひっくり返された。その時から退任は時間の問題であった。昨年、国王が交代したときにも退任を希望したが、サルマン国王に引き止められた経緯もあり、もう少し「勇退」待遇であっても然るべきだろう。

2014年末にサウジが価格より販売シェアを優先する政策を採ったとき、価格下落は想定していたことだったが、リヤドの高官たち(Officials in Riyadh)は、60~70ドルで落ち着くと見ていた。予想以上に価格が落ち込んでしまったため、サウジは「脱石油」への道を選択することとなったが、一方で、この賭けはすべきではなかったとの批判もある。1月の30ドルから50%回復しているのがナイミにとって少しは慰めだが。

市場は、長いあいだ後任とみなれていた、サウジアラムコの会長でもある有能なテクノクラートであるal-Falihが後を継ぐので安心している。彼はMBSのinner circleでもある。MBSもal-Falihも、これまでナイミの政策に基本的には同調してきているので、大きな政策転換はないだろう。

これまでナイミは、故アブドラ国王の下で、信頼され、独立性をもって政策運営をしてきた(筆者注:石油政策に外交をからませない、というのがこれまでのサウジの大方針だった)。かねてよりサウジの王室は石油政策についてはテクノクラートに任せ、コメントをしないものだったが、MBSは違う。”Vision 2030” を最優先すべく、口出ししている。

市場にとってさらに心配なのは、「ドーハ会議」のみならず、すべての石油政策に地域政治およびイランとの権力闘争をからませることを王室が許容していることだ。

ナイミの退任は、サウジアラビアと石油市場にとって、一つの時代の終焉だ。


彼女の分析は、サウジ王室が安泰であることが前提のようだが、大臣になれなかった異母兄弟のアブドラジズ・ビン・サルマン王子(石油省次官)は、すっかり影が薄くなったモハマッド・ビン・ナイフ皇太子(MBN)は、アブドラ前国王の王子たちは、どのような気持ちで事態に臨んでいるのだろうか。

また、ワッハーブ派の宗教指導者たちは、MBSの大胆な改革案にどのような態度を示しているのだろうか。

まだまだ気になること、知りたいことがたくさんあるなぁ。


編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2016年5月8日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。