今まで長谷部恭男氏の「よい解釈改憲と悪い解釈改憲」とか、石川健治氏の「閣議決定がクーデター」とか、憲法学者の珍説をみてきたが、彼らはよくも悪くも一貫していた。
ところが昔は自民党の味方として「集団的自衛権の行使は合憲だ」と主張しながら、去年になって「違憲だ」と意見を変え、おまけに安保法を廃止する政治団体を立ち上げて参院選に出馬する支離滅裂な憲法学者が出てきた。小林節氏(慶応大名誉教授)だ。
彼はこの2006年11月11日の産経新聞で「集団的自衛権の解釈は政治の責任で変更できる」と今回の安倍内閣と同じ立場をとり、2013年7月26日のダイヤモンドオンラインではこう書いているのだ:
政府は憲法の立法趣旨に照らして、集団的自衛権を自らの解釈で自制していますが、このままだと日本は、他国に攻められたときに自分たちだけで自衛しなくてはいけません。しかし、「襲われたら同盟国が報復にゆく」というメッセージを打ち出せる集団的自衛権は、他国の侵略を牽制する意味においてもメリットがあります。だから、改めて「日本は集団的自衛権を持っている」と解釈を変更するべきでしょう。
彼は嘘つきの竹田恒泰の師匠だから病気が感染したのかもしれないが、どっちが嘘なのか。今の話が本当なら、なぜ意見が180度変わったのか。彼は言い訳めいたことを言っているが、「過去の私の見解は誤りでした」と謝罪してから、偉そうなことをいうべきだ。
憲法学界というのは、こんな風に「空気」に合わせて学説を変えるカメレオンみたいな連中がウヨウヨしている。戦前は穂積八束や上杉慎吉のように、天皇大権を主張して美濃部達吉の天皇機関説を攻撃した右翼が東大の主流だった。
それが戦争に負けると宮沢俊義も平和憲法派に転向し、芦部信喜は「自衛隊も安保も違憲」だと説いたが、その弟子の高橋和之氏は「存在するものは否定できない」と変わり、その弟子の長谷部氏は明確に自衛隊も安保も合憲という立場になった。
だから自民党の船田元氏も、長谷部氏は自民党の味方だろうと思って参考人に呼んだのだが、彼は「集団的自衛権の行使は違憲だ」といったので大騒ぎになり、今に至る不毛な憲法論争が続いている。しかし昔の小林氏も言っていたように、
今の日本は海外派兵を自制しているため、自国が侵略されそうなときは同盟国である米国に助けてもらえる一方、米国が侵略されそうなときには助けにいけない。でも、これだけの大国になった今、それでは済まないでしょう。今後、集団的自衛権を認めれば、日米安保が強化され、日本の領土をより安全に守ることができるようになるはず。
その通りである。憲法は国民を守る手段であって目的ではない。手段が目的に適合していない場合は、美濃部のように解釈を変えればいいのだ。小林氏のように流行に合わせてご都合主義的に学説を変える連中のほうが、安倍首相よりはるかに危険だ。