サウジの新石油政策が昔からの疑問を呼び戻す?

考えさせられる記事だ。FTが、今朝方(May/8/2016 5:52pmロンドン時間)に “New Saudi oil era ignites old questions” と題して、ドバイ1人、ロンドン3人の記者が連名で報じているものだ。

記事の最後に引用している、エネルギーコンサルタントの次の言葉がこの記事の要点だと言ってしまうと身も蓋もないだろうか。読者のみなさんにはぜひ原文を読んで戴きたい。

「これはサウジの石油政策にとって新しい時代で、不確実性に富んでいる」「石油市場はさらにvolatility(不安定、乱高下、変動性)を増すだろう」

筆者の理解するところを交えて紹介すると、次のようになる。

「サウジは家父長性的福祉国家なのだからという理由で、市民へのエネルギー価格を値上げ(補助金削減)することに疑問を呈した」とされるナイミの考え方では、モハマッド副皇太子(MBS)の野心的な経済改革案(Vision 2030)の実行は困難だ。あるサウジの銀行家は「ナイミは年を取りすぎていて新しい考え方についていけない。ナイミは、サウジアラムコは石油省の一部だとみなしていた」という。

2030年までに「脱石油」経済を実現するという経済改革案(Vision 2030)の核心である、サウジアラムコの民営化をテコとして2兆ドルのSWFを創設するために、「Khalid al-Falihが広範な経済改革案の中に、石油が占める役割についての真の戦略を打ち出すだろう」とダニエル・ヤーギンは指摘している。

MBSもal-Falihも、現在の石油政策がベストと判断しているので継続性は保たれると理解されているが、根本的な違いがある。

ナイミの時代までは、石油を政治の道具としては使用しない、石油価格が危機的な水準にまで高騰しないように、いざという時のバッファーとしての「余剰生産能力」を保持する、という大原則が存在していた。だが、MBSは、もしイランがシェアを取りに来るなら、いつでも11百万バレル/日以上の生産できる、ということを示唆している。al-Falihも「如何なる需要増も、余剰生産能力を持つサウジがそのメリットを享受する」と言明している。

6月の次回OPEC総会でも、サウジの石油政策は見えてこないだろう。サウジは、夏場の冷房用電力需要に応えるために増産をするのが常だが、今年の夏以降も増産したままで推移するのかどうか。

MBSの経済改革案では石油省の役割は小さなものになっている。あるいはサウジには、「脱石油」経済への移行を手助けするための収入を確保するべく増産をするというインセンティブが存在するかもしれない。

そして最後にEnergy Aspect(調査専門コンサルタント)のチーフエコノミストであるMr.Amrita Senの次の言葉が引用して、記事を締めくくっている。

「これはサウジの石油政策にとって新しい時代で、不確実性に富んでいる」「石油市場はさらにvolatility(不安定、乱高下、変動性)を増すだろう」

結局は、サウジは余剰生産能力がゼロになるまで増産をする可能性があり、その場合には価格はもう一度暴落する。だが、余剰生産能力がなくなったときに世界のどこかで地政学リスクが暴発し、供給が阻害されると、価格が暴騰する可能性が片一方で存在する、というわけだ。

うーむ。難しい展開だな。


編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2016年5月9日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。