過去25年間で人口が4倍化した国

まず、読者に質問する。「過去25年間で人口がほぼ4倍化した国はどこか」だ。直ぐに答えられる読者がおられたら、その人は当方からウィーン招待状が届くだろう。当方は英プレミアリーグの覇者となったレスターシティの優勝の確率(5000対1)は念頭にはないが、上記の質問に即正解できる確率はけっして大きくはないはずだ。答えは、中東のヨルダンだ。


▲ヨルダンの首都アンマン市風景(2014年5月9日、撮影)

ヨルダンは1991年、人口はほぼ250万人の小国だった。2013年は645万人(世銀)、そして2015年は950万人に膨れ上がったのだ。人口減の悪夢に悩まされる日本政府が聞けば、耳を疑うだろう。ひょっとしたら、アンマンに電話してヨルダン政府から少子化対策を尋ねるかもしれない。

ヨルダンの人口爆発の原因ははっきりとしている。隣国シリア、イラクからの難民の殺到だ。ヨルダンと同様、大量の難民の殺到に瀕しているのはレバノンだ。そしてヨルダンとレバノン両国はサウジアラビア、クウエート、カタールなど湾岸諸国のような原油生産国ではない。

ヨルダンには砂漠はあるが、原油は皆無だ。カリ肥料、燐鉱石などの一部の製造業以外に輸出産業がない。その国に過去25年間、自国人口の3倍に値する難民が入ってきたのだ。計算に疎い当方でもヨルダンの台所事情が如何に大変か推測できるというものだ。

シリア紛争が停戦し、イラクの政情が安定すれば、ヨルダンに逃げた難民は母国に戻るだろうが、それまでヨルダン政府は自国民の3倍の“暫定”国民を養わなければならないし、さまざまなケアが必要だ。ヨルダンのアブドラ国王が頻繁に米国を訪問し、日本側との接触に心を配るのは難民対策への経済的支援の要請があるからだ。はっきり言って、ヨルダンは日本や欧米諸国からの経済支援なくして存続できないだろう。

キリスト教徒の国民が多いレバノンも同様だ。シリアやイラクからのイスラム教徒の難民殺到で国内の治安状況が悪化している。レバノンにイランと密接なつながりのあるシーア派イスラム武装組織「ヒズボラ」がいる。レバノンの政情を今後、重視しなければならない。

バチカン放送独語電子版によると、ローマ訪問中のハッサン・ビン・タラール王子(アブドラ現国王の叔父で故フセイン前国王の弟)は、「わが国は過去、ほぼ10年に1度紛争を体験してきた。1948年、56年、67年、73年、そしてイラク戦争、イラク・イラン戦争だ。戦争の度に犠牲を強いられてきたのがヨルダンであり、レバノンだ。わが国には難民のパレスチナ人が既に居住している(人口の7割がパレスチナ系住民)」と指摘、国際社会にヨルダンとレバノンへの支援を要請している。

ちなみに、ロンドンで2月初めに開催されたシリア避難民支援国際会議で参加国から110億ドルの支援が約策されたが、重要な点はその約束の実行だ。

ハッサン・ビン・タラール王子は、「リンゼー・グラム米上院議員が提案した中東諸国へのマーシャルプランが実現することを願っている。それに中東地域の再建と開発のための地域銀行が設立されれば理想だ。世界の各地域には地域独自の開発銀行があるが、中東地域にはそのような銀行がまだない」という。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年5月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。