日銀は12日に4月27、28日に開催された金融政策決定会合の主な意見を公表した。このなかの金融経済情勢に関する意見のひとつに、なかなか興味深いものがあった。
「消費者物価上昇率は年度明け後に下振れリスクが高まった。しかし、2%の「物価安定の目標」を大きく下回っている現在の物価上昇率や予想物価上昇率が経済活動を特に阻害はしていない。」
物価に関する意見では、「企業収益から雇用者所得への波及は維持されており、賃金の上昇を伴いつつ、物価上昇率が緩やかに高まっていくというメカニズムは着実に作用している」、「需給ギャップ等の改善が続くもとで、物価上昇率は高まっていく」というこれまでの日銀の説明が繰り返されたが、上記の意見はそれと比較するとかなり異質に思える。
物価目標から遠ざかっている現在、日銀の説明は言い訳にしか取れない。日銀はいろいろと策を講じて、新コアコア指数など持ち出して物価の基調はしっかりしていると説明していたが、そもそも大胆な金融緩和で物価は上がることが前提にあったはずである。物価が上がらないことに対しては、原油価格や消費増税に責任転嫁している感もあるが、金融政策で物価が動かせるという前提はどこに行ってしまったのか。基調とかの問題ではなく、目標とする物価そのものが金融政策であがらなかった理由の説明をしてほしい。
それはさておき、最初のある委員の意見をみてわかると思うが、そもそもアベノミクスの根源にあったデフレ脱却に対して本当に必要なものであったのかという問題もある。デフレ脱却とは物価の下落基調を止めようとするものであるが、それは低迷する日本経済を活性化させることが根底にあったはずである。結果としての物価の低迷に対して、その結果の部分を日銀の異次元緩和で上げようとしたのがアベノミクスと呼ばれるものである。
しかし、体温が低下したから無理矢理暖めれば回復するというものではなかろう。体温低下のそもそもの要因は物価が低下したからではない。鶏と卵の論争になりかねないが、日本経済が成熟期に入り少子高齢化や、バブル崩壊後に雇用などのスタイルが大きく変化し、その結果として物価が上がりにくい状況になった。物価はある意味、日本経済の姿そのものを示すものともいえる。それを日銀が国債を大量に買い入れて何とかできるものとは到底思えない。しかも、もし物価水準が身の丈にあったものであるならば、無理矢理上げる必要もないのではなかろうか。
「現在の物価上昇率や予想物価上昇率が経済活動を特に阻害はしていない」との見方は私は正論だと思う。物価を何かしらの手段で2%に無理矢理引き上げたほうが、むしろ日本経済は混乱しかねない。政府の債務残高がこれほど膨れあがったなかでの2%を超える国債の金利上昇に日本の債券市場が耐えられるのかといった疑問も残る。日銀はすぐには物価目標の旗は降ろせないかもしれないが、特に目標は達成せずとも安定した経済成長は可能といった発想に戻すことも必要なのではなかろうか。
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編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2016年5月13日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。