クリス・エヴァンス初監督作品はラブロマンス

クリス・エヴァンスといえば、マーベル製作「キャプテン・アメリカ」で一躍スターダムにのし上がりましたよね。やんちゃそうでいて、クラシカルな面持ちがピッタリです。鍛え抜かれた身体を存分に発揮する作品での露出が目立ち、「キャプテン・アメリカ」を射止める以前は同じくマーベルの「ファンタスティック・フォー」で知名度を築きました。

その彼の初監督作品が、まさかコテコテのラブ・ロマンスだったとは!

グランド・セントラルでトランペットを吹いていたニック(クリス・エヴァンス)は、電車を逃し途方に暮れた女性、ブルック(アリス・イブ)に出会う。鞄を盗まれた上に携帯を落とし壊してしまったブルックを、ニックは自身のクレジットカードで女性の目的地ニューヘイブン(自宅はボストン)まで届けようとするも、カードは利用停止であえなく撃沈。最初は警戒していたブルックは、真夜中のNYでニックの親切心に触れ徐々に心を開いていく・・。

ブルック役のアリス・イブは、「スタートレック」に出演していましたね。

ストーリーを追っていくと、1995年公開の映画「恋人までの距離(原題:Before Sunset)」が思い出されることでしょう。ウィーンでひょんなことで出会ったイーサン・ホーク演じるアメリカ人旅行者と、フランス人女学生ジュリー・デルピーが織り成すラブストーリーです。クリスくんの作品は、オマージュあるいはパクりとバッシングを受けても仕方ありません。公衆電話の使い方、終盤に登場する占い師のシーンなど、まさに「あったあった」と苦笑を誘いますから。クリスは34歳ですから、多感な中学生当時に観賞した同作品に強い感銘を受けたでしょうか。

気になる点は、なぜボストンへ帰るブルックがコネチカット州ニューヘイブン経由を使おうとしたのか。グランド・セントラル駅発の電車はNY州のアップステートと呼ばれる北部かコネチカット州止まりです。ボストンへ向かうにはグランド・セントラル経由ではなくペン・ステーション経由で長距離旅客輸送のアムトラックを使用するはずですが・・。

また、ブルックが夫の浮気を発見したツールがeメールだというのもお粗末ですよね。そもそもPCにはロックを掛けるでしょうし、今どきメールで愛を語り合うカップルがいますか?

日本人としては、ラブストーリーの展開よりもNYを堪能する作品と捉えたい。グランド・セントラルに始まりダウンタウン、チャイナタウン、ブルックリン・ブリッジとお馴染みの名所が次々に登場します。2人の会話にツッコミを入れつつ、NYでの思い出に浸りながら観賞できますよ!

最後に、ブルックが口にした「デペイズマン(dépaysement)」を考えたい。ロンドンにいた頃に違和感を感じてボストンに住まいを移したと語っていたように「途方に暮れる」という意味があります。他にも「風景を変える」という表現に使われ、ルネ・マグリットに象徴されるようなシュールレアリズムの手法を指す。彼の作品「恋人たち」は、口づけを交わす2人の顔がくるまれるような意外な組み合わせを駆使し、心をわしづかみにしますよね。

もしかしたら、クリスくんはニックとブルックの2人の出会いをこの「デペイズマン」を通じて描写したかったのか。そんな議論を交わすのも、一興でしょう。あと、出演するクリスくんの弟、スコット・エヴァンスを探せ!ゲームとして見ても面白いかもしれません。

(文中、カバー写真:We Are Colony


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2016年5月15日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。