WSJが、習近平が毛沢東に似てきたことを皮肉って「習氏と毛沢東との関係を理解するうえでカギとなるのは、かつての封建主義国家でいまだに存在する世襲の特権だ」と書いています。アメリカ人にとっては古い因習はみんな「封建的」なのかもしれないが、これは寅さんが「おめえはフーケンテキだ」というのと同じです。
歴史学的には、中国が中世ヨーロッパのような封建制(feudalism)だったことは一度もありません。古代中国の殷や周で「封建制」と呼ばれたのは氏族共同体の一種です(だから訳語もよくない)。神聖ローマ帝国のように多くの国が広い地域で分権的に連合したのが封建制ですが、中国は2000年以上にわたって徹底した中央集権国家でした。
この意味で封建社会があったのはヨーロッパと日本だけで、これが日本が自力で近代化できた要因といわれています。ヨーロッパではその後の宗教戦争で封建社会が破壊されましたが、地域社会が国家権力から自立することは近代社会の条件で、歴史学では「封建社会」はいい意味で使われることが多い。
日本は300年かけてゆるやかに幕藩体制が自壊したため、いまだに(よくも悪くも)封建制の特徴が残っています。それは分権的な組織と、格式は高いが実権のない弱いリーダーです。これは自民党の派閥から会社の事業部に至るまで、日本社会に広くみられます。
これは平時には適したしくみで、高度成長の原因ともいえるでしょう。トヨタでえらくなるのは「花見の幹事ができる人」といわれているそうですが、これは封建制の特徴をうまく表現しています。要するに突出したリーダーはだめで、調整型が出世するわけです。
この意味で日本は特殊な社会ではなく、中世の特徴が残った後期封建制とでも呼んだほうがいいでしょう。これには強みも弱みもあります。江戸時代のように平和が続いた時代には調整型のリーダーがみんなを仲よくまとめることが大事でしたが、明治以降、戦争が始まると、強い最高指揮官がいないので大失敗しました。
それでも徳川300年の平和ボケの遺伝子は日本人に強く残っているので、憲法第9条さえあれば平和を守れると思っている人が多い。会社でも、利益を最大化するより雇用を守ることが大事です。
しかし今や資本主義もグローバルな戦争なので、仲よし型の日本の会社は苦戦しています。政治でも派閥に遠慮していると、思い切った改革はできません。日本の政治も会社も、そろそろ封建制を卒業したほうがいいと思います。