6月14-15日に開催されるアメリカのFOMCで12月に続き、利上げに踏み切るかどうか、市場が再びやかましくなってきました。これは先日公開された4月26-27日の定例会合の議事録が公開された際、「市場は利上げしないと安心しきっている、だから少し警戒心を持たせなくてはいけない」という趣旨のことが書いてあったことで市場の色がすっかり変わってしまいました。
もともと6月の利上げ確率はほぼゼロとされていたのにこの議事録に端を発して市場は利上げするかもしれない理由探しを一生懸命開始した様に見えます。つまり、市場の予想とはそれぐらい腰が据わっていないもの、とも言えるでしょう。
では本当に利上げする気があるのか、ですが、私は依然ないと思っています。
FOMCが金融という世界だけを見て金利の上げ下げを決められるのなら別ですが、外野から様々な声は入ってくるでしょう。その声の大きさと重要さでやはり判断が揺れるとするならばここは利上げは踏みとどまるとみています。
最大の理由はオバマ政権も次期政権もドル安をベースにしたアメリカ経済の再構築を考えているからであります。まず、オバマ大統領ですが、レガシーとなるか分かりませんが、TPPを批准させようといまだに画策しています。そのタイミングは大統領選が終わる11月初めから年末ぐらいまでの2か月しかありません。この間の手薄な時期を狙って批准させようという魂胆があり、そのために反対派を抑えるため、ドル安誘導し、TPPに賛同を得やすくする戦略があります。
G7などでアメリカのルー財務長官は為替の意図的誘導は許さないとし、特に日本に対する厳しい監視体制を暗にほのめかせています。私はこの財務長官の意図とは米ドルを安くしたいのに円が安くなるのは意に反するという為替誘導策の戦いそのものであると思っています。とすれば、アメリカ財務当局は円やユーロの恣意的誘導を「前線」を通じて止める役割、大本営のFOMCは利上げをなるべくしない方向にもっていくことでコントロールするという連係プレイに見えるのです。
アメリカは本当に利上げできる状況にあるのか、ですが、各種経済指標は悪くはありません。ただ、今、再利上げに踏み込むほど足元が万全かと言えばやはり疑問が残ります。
あまりなじみがないと思いますが、自然利子率というものがあります。この定義は省略しますが、一般にこれは経済の潜在成長率に近いものとされています。ではアメリカに於ける自然利子率を見ると60年代は6%を超えていたものが見事に右下がりとなり、2009年にほぼゼロ、そして現状もゼロ近辺をさまよっています。(日経ビジネスより)
このグラフにはある重要なポイントが隠されています。それはリーマンショック前に2%以上だったものが一気にゼロまで落とした後、全く回復していないということです。つまり、大所高所から見るとアメリカの景気は昔に比べてまるで水準が違うところにあるのであって、目先の失業率やインフレ率がちょっと良くなったぐらいで金利の調整をするようなレベルではない、ということです。
日本が長期にわたる低金利政策を余儀なくさせられているのはこの潜在成長率が上がらないためであり、これは日銀がどう頑張っても動かせるものではないのです。そういう意味では流動性の罠に引っかかっているわけでアメリカも住宅バブルが弾けた2006年、あるいは市場に衝撃を与えた08年のリーマンショック以降、日本の「失われた○年」と同様のパタンにあるといえましょう。
よってここでアメリカが無理をして利上げを継続するものならばかつて日銀の速水さんが間違えたようなあの時の再現となりかねないのです。
但し、一点、イエレン議長が「抵抗」するならば低金利政策を主張しているドナルドトランプ氏が大統領になる可能性を頭に描きながら彼の思惑に対峙するという発想もあります。が、それではあまりにも幼稚でしょう。
アメリカはまずは原油価格を50-60ドルに回復させないと自国のシェールオイル業界が潰れてしまいます。そこまでは何が何でも利上げなどせずに我慢すべきでしょう。
G7の為替議論は「口戦」で日本もアメリカも実弾勝負は出来ないと感じています。今週はサミットを控えますので様々な思惑が入り乱れると思いますが、こういう時こそ大所高所から本質的なポジションを見据えた方が良い気がします。
では今日はこのぐらいで。
岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 5月23日付より