民泊全面解禁のインパクト

岡本 裕明

民泊を年間180日程度を限度に全面解禁する方向で規制改革会議は首相に答申を提出したようです。早ければ今年中に法制化作業が進み、17年度にもそれが許可されるかもしれません。

民泊についてはairbnbなど民泊のインフラが先に紹介され、各地で違法な民泊が後を絶たない状態でした。もともとはホテルや民宿業などとの関係を踏まえ、もう少し政治的圧力がかかるものと思っていたのですが、業界は業績好調であることもあり抵抗勢力があまりなかったこともあるのでしょうか、次々と新しい規制緩和方針が生まれました。

当初、大田区で始まった戦略特区の中の民泊も今となっては高いハードルを設けたことでほとんど無意味なプロセスになりつつあります。私も興味津々コトの成り行きを見ていたのですが、特区という名のもと、余程素晴らしい緩和プランが出来るのかと思いきや、役人はこの程度しか踏み込めないのか、という失望させる条件付保でした。

多分、その声は政府にも届いていたものと思います。それ故、大田区の話とほぼ並行するように国ベースで全く違う次元の緩和策が検討されてきたいきさつがあります。

さて、仮にこの民泊全面解禁が実施された場合、どのような影響があるでしょうか?

まず、マンションですが、これは管理組合のルールが上になりますので仮に法律で許されている民泊解禁でも管理組合が一定の規制をかければそれに従わざるを得ないと思います。つまり、マンションではOKになるかどうか、ケースバイケースという事になります。例えば高級マンションではセキュリティを高めることでマンションの資産向上を図っているところも多いでしょう。その中で右も左も分からない民泊者が好き勝手をするのも困るでしょうし、マンションのアメニティへのアクセス(フィットネスやソーシャルルーム)の問題も出てくるはずです。

一方、戸建の民泊についてはプラスの効果が表れるとみています。これは所有者が民泊用に客間を改装したり、トイレや風呂などに改築を施すことで一定のリノベーションへの支出が期待できること、日本人の凝り性な性格から「おらが村」ならぬ「おらが家」を提供し、ネットなどで話題をさらえば客がもっと来る、ぐらいの感覚をお持ちの方も多いと思います。それこそ、「おもてなし」の度合いをさらに進め、無償で食事や食べ物を提供するところは続出する気がします。例えばそば打ちを習ったばかりの人が「これ食べてみて」ぐらいの感覚です。

但し、食品を提供する場合、それがどういう形であれ、食中毒など何らかの問題が発生した場合、後々大変面倒なことになりますから必要な許可は必ず取得すべきです。このあたりは甘く見ている方が多い気がします。日本ではルールと実態が大きくかけ離れることも多いのですが、今回の全面解禁は日本にしては珍しく脇が甘そうな緩和のような気がいたします。

一番のメリットは民泊を通じて住宅の所有者が小遣い稼ぎが出来るということでしょう。50%稼働で月に数万円から10万円ぐらいになるでしょうから、それが消費に回ってくれるなら都合がよいと思います。

留意すべき点としては、需要がどこまであるのか、これはもう少し、様子を見た方がよさそうな気がします。今は確かにホテル不足に高水準な訪日客数、更に政府はビザの緩和を進めているため、より多くの外国人が日本の門戸を叩くことになります。ですが、「日本ブーム」はブームであっていつかは廃れるとも言えます。あまり期待先行で行くとしっぺ返しもあるでしょう。

全面解禁になった場合、メリットを享受できるのはシェアハウスの運営者でしょう。雨後のタケノコのように増えたシェアハウスも最近はそのブームが一段落し、日本人の若者の需要は頭打ちです。なかなか満室にならないところも多いかと思いますが、シェアハウスの一部を民泊で使うことで事業を好転させることは可能かと思います。

一方、問題も発生しないとは限りません。私が以前検討した都内のある不動産は台湾の方がお持ちで不法な民泊ビジネスを行っていた物件でした。台湾の方が台湾の方向けのマーケティングをするため、何がどこでどうなっているのかわからないという状態だったようです。周辺の住宅とはトラブルを起こしていたのですが、かなり知らんぷりをしていたと近隣から聞いています。

同じようなケースは中国人が所有する物件でも起こりうるし、エアコンが入っていないような物件ならば夏は窓を開け放ち、音楽や中国人のでかい声に悩まされるということも当然出てくるわけで警察への連絡もかなり増える気がします。

もう一つは日本人は脇が甘いという点を指摘しておきます。お客さんだからと言っても自分の家に上げるにあたって泥棒をしないとは限りません。あるいは器物を破損することもあるでしょう。極端な話、火事の要因となるようなこともしないとは限りません。ホテルなどは燃えにくい材質や家具、カーテンを使用しています。が、一般家庭には燃えやすいものだらけです。冬にストーブを提供していたら間違った使い方をしてそれが引火することだってあるかもしれません。

当然ながらここで登場するのが損害保険会社でどのように査定していくのか、中長期的な展望も必要でしょう。今は事故率がないので突然高い保険が出てくるとは思いませんが、長い将来、このあたりも頭に入れておいた方がよいかと思います。

インターネットのサイトは民泊を提供する側の信頼度は何らかの形でわかるようになっていますが、客の信頼度は全く分からない、しかも外国人で言葉も常識観もすべて違うことになかなか苦労する方も多い気がします。ただ、最終的にそれが日本の国際化に繋がるならそれはそれで大きな意味合いがあります。

以前は国がここまで民泊に積極的になるとは想像もしていなかったのですが、せっかく踏み込んでいる解禁ですからこれが多くの方のメリットにつながればよいかと思います。

では今日はこのあたりで。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 5月24日付より