※イラストは中尾自作による出版用ポートレート。
著者の憧れは「夢の印税生活」である。印税専用の口座を作成し毎月気がついたら振り込まれている。自分専用の魔法の口座だから奥様のチェックもはいらない。本を書いてもらいたい版元(出版社)は順番待ちの状態で列をなしている。
版元 先生、次はウチで書いてもらえませんか?
著者 今年は既に予定が埋まっています。来年であれば検討できなくもないですよ。
版元 先生、印税を先払いしますからよろしくお願いします。
著者 アワビが美味しい季節になりましたね。ミシュランの三ツ星とかね・・
中尾ゆうすけ氏(以下、中尾)はベストセラー作家であり著者仲間でもある。ちなみに上記のケースは中尾のことではない。さて、中尾の『部下が絶対、目標達成する「任せ方」』(PHP研究所)が興味深い組織人事系書籍だったので紹介したい。
●モチベーション理論の限界を知る
組織や人事には普遍的な性質が存在する。例えば、「風通しのよい組織」という表現を耳にすることがあるだろう。しかし、風通しのよい組織にはなかなかお目にかかれない。最近は、ファイアーオールの問題から「風通しのよい組織」を問題視する向きもあるが、会社とはそもそも風通しの悪いものであることは間違いないだろう。
「企業風土」も同じような意味でつかわれる。企業風土を診断することは可能だが、企業風土そのものを改革することは困難である。特に大企業における風土改革には大きな困難が立ちはだかる。「風通しの悪い組織」は社内で共通するから、それが「企業風土」として形成されていく。
企業風土は外部からのあらゆる情報やリソースの動きを阻んでいく。優秀な社員を採用したにも関わらずパフォーマンスが発揮できずに企業風土で潰されるケースは非常に多い。
このような時に、研修会社やコンサルティング会社は「モチベーション理論」を主張する。「モチベーションがあればなんでもできます」「成果が出ないのはモチベーションが減退しているからです」「モチベーションをアップするための施策が必要です。」
中尾は、このようなモチベーション理論に警鐘を鳴らしている。多くの組織人事担当者が気づいていないポイントとして中尾は次のように説明している。
――全ての部門には何らかの役割やミッションがあります。役割やミッションがある以上、必ず目標が存在します。営業部であれば売上、購買部であればコスト削減、経営企画であれば事業計画や戦略策定などがあります。
しかし目標にモチベーションは関係有りません。仮にモチベーションが低くても目標値は変更されません。社長に「ウチの部門はモチベーションが低いので目標値を下げてください」といっても通らないでしょう。
そしてモチベーションには次の2つの側面があります。
1)モチベーションは部下自身がスイッチを入れない限り高まらない
2)どんなに影響力を発揮しても上がらない場合もある
モチベーションをコントロールするのは自分の意思です。外部の影響力が及びにくいモチベーションに働きかけるのではなく、モチベーションが無くても目標を達成するための施策を考えなければいけないのです。これは、本人にも上司にもいえます。
特に業績責任を負っている上司にとって、部下のモチベーションはやる気に大きな影響を与える。やる気を引き出すために、飲みニケーションを頻繁におこなっても、部下のやる気がアップするのは限定的。いやせいぜい2~3日と主張する上司も多いことだろう。その点についても、中尾は次のように述べている。
――以下のケースのとき、皆さんはどのように考えますか。
1)モチベーションの高い人がいなかったら誰に任せるか
2)モチベーションが低ければ成果を出さなくてもよいか
3)成果を出さなければ給料を下げてもよいか
この3つの質問に対して「モチベーションが低い人には任せません」と答えるなら上司の適性はありません。上司ならば「モチベーションが低くても任せること」を考えなくてはいけません。会社というものはモチベーションの有無に関わらず成果が求められます。モチベーションが高まることで業績がアップするような幻想をいだいている人が多いですが、それは根本的に間違えているといわざるを得ません。
それではどうすれば良いのか。中尾が指摘するのはモチベーションの分散である。チームやペアで取組ませることで相互に補う意識が生まれ改善してくるというものだ。またチームやペアで分散できない場合は、無理に分散させるのではなく、アウトソースをしたほうが効率的とも主張している。
●本日のまとめ
人材育成は会社にとって永遠のテーマである。経営者は業績に寄与する人材を常に嘱望しているものだ。適材がいなければ外部から調達しなければいけない。しかし冒頭説明したとおり、外部から調達した優秀と思われた人材が活躍できないことは多い。
中尾は過度な外部依存はリスクであるとも主張する。例えば人事評価を外部のコンサルタントに委託するケースは多い。しかし人事評価を精緻にすることには限界がある。このような場合には人事評価を精緻にするのではなく、どのような評価をされても納得しやすい上司部下の関係性を構築したほうが早いともいえるだろう。以前にも増して、上司部下の関係性が重要になっていることはいうまでも無い。
尾藤克之
コラムニスト
追伸
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