正しい判断だったクリスピークリームの大量閉店

岡本 裕明

ドーナッツのクリスピークリーム、食べたことがある人も多いかもしれません。6,7年前、新宿のサザンテラスの前を通りかかった際、長蛇の行列に「たかがドーナッツになぜ?」と思いました。その後、何度か食べる機会もあったのですが、日常的に食べるものではないし、一人当たりのドーナッツ消費量が世界で一番のカナダから来た者にとってドーナッツ屋の行列はお祭り騒ぎの一環なのかなという気がしました。

ハワイにあるエッグ アンド シングス。朝食にフルーツ盛りだくさんのパンケーキなどで著名な店でハワイにあるどの店舗でも1-2時間待ちというケースが多く、ちょっと遅めの朝に行くと朝食ではなくて昼食になってしまう、ぐらいの感覚です。この店も日本に進出した際、大変な話題になったのですが、私はあれの何処がうまいのか分からなくて味覚音痴かと自分を責めてみたりしたのですが、自分で作るパンケーキのほうがやはり旨いと思います。

パンケーキのブームもどうなのでしょうか?そろそろ沈静化したのでしょうか?大学生の時、アルバイトでファミリーレストランの厨房で働いていたのですがパンケーキの仕込み、お客さんへの提供を嫌というほどやっていました。粉物は原価が安くてその店も確か、2枚重ねで簡単なトッピングをつけて180円で提供していたと記憶しています。それが今さらまた、と思うのですが、ブームは循環するのでしょう。

さて、クリスピークリームドーナッツが店舗数を64まで増やしたところで一気に17店舗閉店することになり、嫌なうわさが流れたようです。クリスピークリームはアメリカ資本でロッテとリヴァンプが日本の営業権を取得し、2006年から事業を進めていました。社長さんはリヴァンプから来ています。リヴァンプは投資を通じた経営支援サービスをする会社でかつてユニクロ、今はローソンの玉塚元一氏も在籍していたことで名前を聞いたことがある人もあるでしょう。

行列ができる店をここまで一気に縮小させるのは並大抵のことではないと思いますが、なぜ、そのような判断をしたのでしょうか?同社の社長が述べたのは「適正収益をしっかりとりたい」、だから地方の様に営業コストがかかるところは閉め、三大都市圏に集約すると。

私は社長の判断は正しいと思います。理由は外資で日本での営業権だけですからクリスピークリームの店でパンケーキは提供できないのです。つまり、はやり廃れの激しい若い女性向けの食ビジネスに於いて変化球が出せないのであれば、華のあるうちに絞り込むというのは将来的損失を事前の抑え込むという意味で良い判断だと思います。

もしも日本での営業権で自由度があるのなら違う製品を投入すればよいのです。日本のマクドナルドもテリヤキシリーズを出して日本ではヒットしました。余談ですが、実はそれはのちにカナダに逆輸入されました。すごくチープなラジオのコマーシャルに「日本をバカにしているのか」と言いたくなった記憶があります。商品も全然ヒットしなくてすぐに消えました。

女性の甘味を中心とする流行はせいぜい数年のような気がします。そして街中には恐ろしいほど甘味が溢れています。デパ地下に行けば本当においしそうなケーキに和菓子もずらっと並びます。ドーナッツに関していえばセブンやローソンなどで売り出したことでドーナッツブームになるのかと思いきや、多分、失敗したのではないかという気がしています。理由はドーナッツは作りたてが命なんです。マックのハンバーガーの食材も短時間で廃棄するようになっていますが、ドーナッツもそれと同じぐらい鮮度が重要にもかかわらず、配送されてきて棚に置いてあるドーナッツは何時のもの、ということかと思います。つまり、ドーナッツブームになりかけていた熱を冷ましたのがコンビニドーナッツではないかという気がするのです。

ドーナッツのメッカ、カナダでも私が旨いな、と思わせる店があります。元々はこだわりコーヒー店。そこにドーナツの製造販売を併設したのです。この作り立てのドーナッツを食べると作り置きのドーナッツは脂っぽく、サクサク感の違いがすぐ分かります。

ならば、クリスピークリームの大量閉店はコンビニドーナッツが招いた悲劇かもしれません。その作りたて感をもっと前面に出せばセブンなんて赤子をひねるぐらいの感じでやっつけられたかもしれません。言い換えればクリスピークリームの社長さんにも問題があったということです。今の社長さんは自動車販売会社からリヴァンプを経ています。食品や若い女性のハートともあまり経験がないように見受けられ、さすが投資会社として銭勘定に力点を置いたな、という気がします。嫌味な言い方をするとリヴァンプにクリスピークリームは経営できないのだから銭が減る前に店を閉めるだけ閉めた方がよいとも感じ取れます。

投資して簡単に儲けられる時代は過ぎたと思います。商社がなかなか稼げなくなったのはマネーと影響力の行使でビジネスを強引に進めてきたからです。本当の専門分野をもっと作り上げないとこれからのビジネスは失敗しやすいという警告なのかもしれません。

では今日はこのぐらいで。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 5月30日付より

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。