ユーロ2016のテロ対策大丈夫?

欧州サッカーのクラブ最高峰を目指した欧州チャンピオンズ・リーグ(CL)の決勝戦は28日、イタリアのミラノでレアル・マドリードとアトレチコ・マドリードの間で行われ、レアル・マドリードが2季ぶり11度目の優勝を果たした。

欧州のサッカーファンの目はいよいよ来月から始まる第15回欧州選手権(ユーロ2016)に注がれる。フランスで6月10日から7月10日まで欧州サッカー連盟(UEFA)主催で行われ、パリで行われるフランス対ルーマニア戦の開幕試合を皮切りに、10カ所のスタジアムで24カ国のチームが計51試合を行う。開催中に250万人以上の観客やファンがフランスに押し寄せてくると予想されている。

ユーロ2016について、ビジネス関係者や観光業者は、「記録的な売り上げが期待できる」という声が聞かれる一方、イベントの安全な挙行について治安関係者は神経を尖らしている。

フランスは約7万2000人の警察官と1万3000人の民間警備員を総動員してユーロ2016の安全開催を守るという。その詳細な警備体制は公表されていないが、「フランスの警察官は長期化した非常事態宣言下で疲れ切っている。その上、政府の労働改正法案に反対する労組のストが予定されているなど、警備体制は万全とはいえない」という。

カズヌーブ仏内相は、「100%安全だとしても、不測の事件が発生する危険性は常に付きまとう」「欧州の都市で絶対安全な都市など存在しない」という。

フランスは昨年2度、イスラム過激派のテロに遭遇したばかりだ。昨年1月7日、風刺週刊紙「シャルリー・エプト」本社が襲撃された。イスラム過激派テロリストのターゲットは「シャルリ―・エブト」紙でイスラム教創設者ムハンマドの風刺を書いたジャーナリストたちだった。同年11月13日のテロ事件は市民を狙った無差別テロだった。130人が犠牲となった。後者をソフト・ターゲットのテロ事件と呼ばれ、パリ市民は自分たちがテロに遭遇する恐れがあることを肌で感じたテロ事件だった。そしてイスラム過激派がユーロ2016で計画しているのが後者のテロだ。

政府建物や公共施設の場合、既に常時警備されているうえ、訓練は行われているが、サッカー試合場の場合、完全にテロの危険を排除するのは難しい。スタジアムだけではない。大型の映像装置を利用して観戦するパブリックビユーイング(Public Viewing)には数万人が観戦する。私服警察官が警備し、不審な行動をする者を拘束するが、観客の数に対し、警備する私服警察官の数は限定される。治安関係者は頭が痛いわけだ。

開催日が近づいてきたが、テロ対策と共に懸念される問題は、祝日の削減や最低賃金の事実上の引き下げなどを含む政府の労働市場の改革案に対して労組が反対デモを実施中のことだ。開幕式の6月10日も労組関係者はデモを継続する考えという。労組関係者は「ユーロ2016を楽しみたいのは当然だが、自分たちの生活を守ることはもっと大切だ」と、強硬姿勢を崩していないという。

開幕まで10日余りを残すだけとなった今日、フランスはホスト国の面子をかけテロ対策に全力を投入する意向だ。課題は欧州各国が保有するテロ関連情報の迅速な交換だ。ユーロ2016に参加する選手たちがテロの懸念なく全力でプレイできることを期待したい。

なお、ブックメーカーによると、2014年W杯覇者ドイツとホスト国フランス両チームが優勝候補に挙げられているが、イギリス、イタリア、ベルギーも強い。当方はオーストリア・チーム(グループF)の健闘を密かに期待している一人だ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年5月30日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。