カタールの日刊紙 “The Peninsula” が “U.S., Britain, Israel still Iran’s main enemies” (June 3, 2016, 2:39:20pm)と題して報じている記事のポイントは、ロウハニ大統領の外交政策を批判しているところにある、と筆者は見る。
記事によると、革命の父・ホメイニ師の27回忌(日本風表現です)にあたりテレビ放映された追悼集会で、何千人もの会衆を前にして最高指導者ハメネイ師が演説し「アメリカ、イギリス、およびイスラエルがイランの主要なる敵だ」と語った、その時、会衆からは恒例の、「アメリカに死を! Death to America!」のスローガンが大声でなされたそうだ。
「アメリカに死を!」か。
今でもあるのだろうか。筆者が勤務していた1996~98年頃、テヘランの主要道路の横に建つビルの壁に、遠目にもはっきりと読める英語で「アメリカに死を”」のスローガンが掲げられていた。一方、街の広場で遊ぶ子供たちはコカコーラ(イラン革命時に接収されたが、コカコーラの瓶がそのまま使われていた)が大好きで、アメリカの有名なバスケット選手の名前入りTシャツを着て遊び興じていたっけ。またイラン人社員たちは、小声で「イラン人はアメリカのものが大好きなんだ」と漏らしていたなぁ。
ハメネイ師は、核協議をめぐる諸条件をイランが履行し、今年1月に「経済制裁」が解除されたはずなのに、アメリカと一部のEU諸国は、イランのミサイル計画や人権問題、あるいはレバノンのヒズボラ(アメリカは「テロ組織」と認定している)を支援していることなどを理由に、依然として経済制裁をしている、甘い言葉で近づいてきて、約束は守らない、と強く非難したのだ。アメリカが依然として「イラン包括制裁法」を無効にしていないため、ドル決済ができない、保険が十分に付保できない、さらには海外からの投資が今ひとつ活発化しないことを非難しているのだろう。
一方で、先週ロウハニ大統領が新たに選出された国会議員の前で、8%の経済成長を達成するためには、毎年300~500億ドルの外国投資が必要だ、と演説したことを、「外国投資によってのみ経済成長ができるという考え方は間違いだ、と批判している。
筆者は、後者の方が影響は大きいのではないか、と考える。
4月の末に再選挙の結果が判明し、新しい国会議員の政治的立場の分類は、穏健・改革派40%、保守派30%、独立系30%になったと主要メディアによって報じられている。この中で、ロウハニ大統領が、対外融和的な外交政策を追求し続けられるのかどうか。海外勢からの投資は、イランが対外強硬策に出ると勢いを失うのは明らかだからだ。特に石油開発事業への投資は、資金のみならず技術の導入という観点からも重要なのだが、この動きに足踏みをするところが出てくるのだろうか。
6月半ばにはサウジのモハマッド副皇太子がアメリカを訪問し、オバマ大統領をはじめとする要人と会談をする、との情報が流れている。この訪問で、イランとの核協議をまとめあげたオバマ中東外交へのサウジの不信がどの程度解消されるのか、注目されるところだ。
一方、1月初め以来、断交状態にあるサウジとの緊張緩和は、ロウハニ大統領が望む外交方針だろう。ハメネイ師の演説は、ロウハニ大統領にとって大きな痛手となる可能性がある。
前門の虎より後門の狼の方が手ごわい相手なのかも知れないな。
編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2016年6月4日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。