体質変化か、ソフトバンクの意図は?

岡本 裕明

ニケシュ アローラ副社長が仕切るソフトバンクの経営戦略はかなりドラスティックで孫正義氏の体質とはかなり異なる気がします。ある意味、ドライで斬った張ったの上手な経営者なのかもしれませんが、日本的な情や長年の付き合いに流されることはない点で日産のゴーン社長に共通するものがありそうです。

そのアローラ氏が進める資産の切り売り、キャッシュ化の行方に注目が集まっています。

まず、第一弾が中国のアリババ社の株式の一部売却であります。その売却に関して6月1日に79億ドル相当と発表したのに翌2日に89億ドル相当に増額されています。それでもアリババの持ち株は28%と持ち株適用は維持します。一日にして10億ドル増えた理由がなぜだか推測しにくいのですが、1兆円プラスの資金が必要であったことは確かであろうと思います。

ところが不思議なのは同社が売却を進めるのはアリババの株式だけではなく、フィンランドのスーパーセルと孫氏の弟が経営するガンホーまで売却すると発表したことであります。ガンホーはパズル&ドラゴンズのゲームで有名ですが、弟の会社の株式を売却する意味がまず不明なこと、第二に売却してもたかが730億円規模であります。つまり資金が欲しいのならアリババの株をもう1%余計に売却すればよいだけのことです。これは全く解せない話です。

更に付け加えればガンホーがこの売却に伴い、TOBをするのですがその金額が発表日の2日の終値の309円に比べて5%近く下回る294円なのであります。3日はどうなるかと思っていましたが、302円とずるっと下げています。ガンホーは中国でのゲーム進出発表で5月下旬にストップ高を付けるなど株価が高騰していたこともあり、これがTOB価格設定の想定外を生んだ可能性はあります。

フィンランドのスーパーセルについてはもともとガンホーと共同で鳴り物入りで買い取ったもののその後、ガンホーの持ち分をソフトバンクが引き受けた経緯があります。その点からすればソフトバンクの経営方針が大きく揺れていることも事実であります。

可能性の話をすれば孫氏の弟の孫泰蔵氏をソフトバンクグループで引き抜くという発想もアリかと思います。泰蔵氏はガンホーの創業者として同社に君臨していましたが今年の2月に会長から取締役に退いています。その理由は「一身上の都合」とされますのでその頃から何らかの準備が始まっていたとみるのが正解だろうと思います。ソフトバンクとガンホーの関係が2%程度となれば泰蔵氏の使命は終わったとみてよいかと思います。

では、ソフトバンクは何を考えているのか、ですが、アローラ氏は否定していますが、やはり、アメリカのヤフー株式取得がナチュラルだと思います。アメリカのヤフーがヤフージャパンの株式を売却方針を打ち出しており、そこに手を上げているのがアメリカ大手通信のベライゾンであります。まかり間違ってベライゾンが米ヤフーの持つ35%の株式を手に入れればソフトバンクとヤフージャパンの一体感はライバルとの極めてやりにくい関係となってしまいます。

アメリカ携帯電話会社スプリントを買収するに際して、ソフトバンクのライバルはAT&Tとベライゾンでありました。敵対する相手に市場を荒らされることになってはたまったものではないということでしょう。となれば、ここからは個人的な勝手な先読みですが、米ヤフーを丸ごと飲み込む計画に対してヤフー株式の購入価格にプレミアム、ないしライバル出現の可能性を見越し、余裕を持たせた資金を確保しているようにみえます。そして孫泰三氏をそこにはめ込むシナリオが描かれている気もします。

孫正義氏は経営者として確かに偉大でありますが、ピークは過ぎた気がしています。特に震災後、自然エネルギー関係に足を踏み入れた時点で何か別の世界に入った感がありました。アローラ氏のお目付け役も必要で弟をその役目に据えるという発想もアリかと思います。

こう見ると米ヤフーの買収の可能性となればこれはソフトバンクが本心でそうさせたものではなく、グループの運営を安定化させるための理由となります。同社はしばし守りの経営を余儀なくさせられるかもしれません。12兆円という巨額の借金が大きな賭けに出にくくさせていることも事実でしょう。その点からはアローラ氏の采配も十分に振るうことが出来ない可能性はあります。特に銀行団は孫氏へのクレジタビリティに対してアローラ氏の手腕にどれだけ信頼感を持たせているのか、まだ懐疑的な気がしています。このあたりが今回、まさかのアリババ株一部売却に進まざるを得ない理由だったのではないでしょうか?

いずれにせよ、ヤフージャパンと米ヤフーの行方は目先すぐに展開しそうです。要注目ではないでしょうか?

では今日はこのぐらいで。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 6月6日付より