沖縄の人は、本当は何に怒っているのか?

田原 総一朗

田原総一朗沖縄で痛ましい事件が、また起きた。沖縄県うるま市で、4月28日夜から行方不明になっていた女性が、遺体で発見されたのだ。5月19日、沖縄県警に死体遺棄容疑で逮捕されたのは、元米海兵隊員で米軍嘉手納基地で働く、32歳のアメリカ人男性だった。女性を暴行し死亡させ、死体を遺棄したことを認めた。容疑者は「軍人」ではないが、軍で働いている「軍属」だ。

国土のわずか0.6%の面積に、在日米軍専用施設の74%が集中する沖縄では、米軍人や軍属の犯罪が後を絶たない。なかでも1995年におきた、「沖縄米兵少女暴行事件」は沖縄県民の間にくすぶっていた不満を一気に爆発させた。海兵隊員2名と海軍軍人1名による、12歳の女子小学生への集団暴行という、あまりにもむごたらしい事件だ。

そして、沖縄県民をさらに怒らせたのは、「日米地位協定」の存在だった。「米軍人・軍属が事件や事故を起こしても、被疑者が公務中の場合、捜査権と第1次裁判権は米軍側にある」というものだ。事件への関与が明らかであっても、起訴されるまで、日本の警察は容疑者を拘束できない。この少女暴行事件の場合、日本側で裁判は行われた。だが、容疑者たちの身柄は日本側に引き渡されなかった。そのことが、沖縄の怒りに油を注ぐことになったのだった。

今回の事件の場合、容疑者は軍属だ。公務外ではあるが、もし米軍基地内に容疑者が逃げ込んでいたら、身柄が渡されなかった可能性もあるという。

翁長雄志沖縄県知事は、安倍首相に日米地位協定の見直しを求めた。伊勢志摩で行われるサミットの際、オバマ大統領に直接、要請してほしいと述べたのである。だが安倍首相は、米国側に抗議はしたものの、地位協定改定に触れることはなかった。

今回の事件で、地位協定は適用されていないため、官邸は、協定の改定まで求めるのは不適切だという政治判断をしたのだろう。これは常識的な判断かもしれない。しかし、翁長知事にとってはそうではなかった。

この安倍首相の対応に、知事は、そして多くの沖縄県民は、本土と沖縄との感情のかい離を感じたことだろう。ますます広まってしまった、政府と沖縄との距離に僕は強い懸念を感じるのである。

自民党で幹事長まで務めた野中広務さんは、橋本内閣、小渕内閣のとき、沖縄のすべての島を訪ね歩いた。そして、地元の人と何度も何度も酒を酌み交わしながら、とことん話し合ったという。このようにして、沖縄の人たちの信頼を勝ち取っていったのだ。いま、野中さんのように、沖縄に足しげく通って、基地問題に腰を据えて取り組む国会議員がなぜ出てこないのか。


編集部より:このブログは「田原総一朗 公式ブログ」2016年6月6日の記事を転載させていただきました。転載を快諾いただいた田原氏、田原事務所に心より感謝いたします。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、「田原総一朗 公式ブログ」をご覧ください。