「俺の」シリーズが変える消費者行動

岡本 裕明

昨日のブログでは消費者の財布の紐が固い、ということを書きました。だからと言って私は消費はもう伸びないといっているわけではありません。紐が固ければ緩めればよいのです。

ブックオフの創業者が生み出した「俺のフレンチ」から始まる「俺の」シリーズは店舗数とその種類を急速に拡大しているようです。今ではフレンチ、イタリアンのみならず焼き鳥、おでん、割烹、そばに揚子江などという種類もあるようで正に無限の広がりを呈してます。

この「俺の」が静かなブームとなり、食に限らず自分のこだわりを示す代名詞的存在になってきているように思えます。最近は「いきなり…」も流行っているようで興味津々です。

日経ビジネスが5月16日号で「賞味期限切れのチェーン店 外食崩壊」という特集を組んでいます。いわゆる画一的なサービスを施すチェーン店がガタガタになる半面、世界で一つしかない個の塊のような店に心地よさを感じるような客が増えてきたという内容であります。

私も日本で下調べをしないで店に入って失敗するケースが増えてきました。ある居酒屋では2時間きっちりで追い出し攻撃をうけました。平日の夜、店には客が3割ぐらいしか残っていないのに「お客様、お時間になりましたので」と言われるわけです。食べ物がまだ残っているのに「すみません、そういうことになっているんで…」と。ならば追加注文をしたらいいですか、と聞けば「ルールなんですみません」とほとんど思考能力ゼロの学生アルバイトに馬鹿馬鹿しさすら感じてしまいました。

もう一店はそこそこ知れているある和食のチェーン店。夜の6時半なのに広ーい店に客は一組。店はシーンと静まり返り、活気がありません。そこに現れた店員君。ぱっと見て「こりゃ、ダメだ」と思ったのは白いシャツがよれよれで薄汚れ、あちらこちらに食べ物のシミ、疲れたネクタイでまるで店員さんまで覇気がなさそうに見えてしまいます。更に途中で追加オーダーをするためにその店員を引き留めたところ「お客様、御用の際にはテーブルのブザーを押してください、係りの者が参りますので」と言われて唖然。他に客は一組、店員は三人暇そうにしているのに、です。

ルールに縛られ、そこから外れたことはするな、ときつく言われている結果、消費者はそっぽを向く、これが今のトレンドかもしれません。デパートが面白くなくなった理由の一つは「そこに行けば何処にでもあるそのブランドがやっぱりあるから」であります。これではどのデパートに行っても同じものが買えるわけで差別化は何処にあるのでしょうか?デパートの一等地にはルイヴィトンなどおなじみの店がずらっと並びます。こんな店づくりが本当に百貨店のあるべき姿なのか、疑問に思う方はいらっしゃらないのでしょうか?

ものが溢れ、店が溢れ過ぎた結果、日本では手に入らないものはない、食べられないものはないとも言われます。しかし、同じような店、知っている店で消費する分には構いませんが、新たなる発見が実は困難になってきました。ネットで探せばいくらでも出てくる、と言われますが、いちいち口コミを読むほど暇ではありません。その上、人気店は予約が取れなかったり売り切れていたりします。そんな中、歩けばハッと気が付く路面店があればベストなんです。

私が何年も前からチェーン店崩壊のリスクを指摘していたのは人間の心理が大きく舵を切り始めているからです。そして一旦、人気が離散し始めると加速度的に悪化するのが世の常であります。日経ビジネスでダメ外食として吉野家、マック、ワタミ、ロイホが上がっています。一方伸びているのがサイゼリア、磯丸、コメダ、てんやとなっています。

私が予想する次の危機はコンビニとみています。コンビニが楽しいと思わせた時代は遠くない時期に終わると思っているのはコンビニの商品構成が売れ筋に限っていて選択肢の狭さに気が付く消費者が増えてくるとみているからです。

日本での消費が伸びません。これこそリーマンショック後より悪いとも言われています。しかし、なぜ消費が伸びないか、その理由をじっくり検討したものはあまり見かけません。消費税が8%に上がったことに全てを押し付けすぎていないでしょうか?

私は消費者行動が単に変わってきたのだろうと思います。お金を使うのには個人の価値観と同期するものが必要です。それは価格の安さだけではなく、1000円使ったとき1500円の満足感が得られるお得感なのですが、多くの店は勘違いをして価格を下げることで満足感をもっと下げてしまっています。

ちなみに私はコンビニではほとんど買い物をしません。せいぜい、一年に数回行くか行かないか。カナダでは基本的に避けて通ります。(笑)

「俺の」シリーズとは個のこだわりそのものであります。これは画一的なサービスを提供してきた巨大チェーン店、飲食から衣料まで全ての分野に於いて大変革が起きる素地が生まれています。ルィヴィトンではなくて私だけのこの商品、友達から「これ、かわいいー」と言われることへの嬉しさが育まれて来たら日本の消費は間違いなく伸びます。

言い換えれば売り手が消費者戦略を間違えたことや流行っているものにあやかった物まね主義が招いた消費者無視のトレンドづくりなどがあった気がしてなりません。

消費の話は次回、もう少し続けてみたいと思います。
では今日はこのぐらいで。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 6月8日付より