日本でのビジネス拡大目指す露の原子力企業ロスアトム

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石井孝明 経済ジャーナリスト

(写真1)ロスアトム社の最新型原発

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(写真2)モスクワで16年5月に開催された原子力博覧会

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ロシアの国営原子力企業ロスアトムが、日本とのビジネスや技術協力の関係強化に関心を向けている。同社の原子力技術は、世界最高水準にある。トリチウムの除去技術の活用や、使用済み核燃料の再処理を引き受ける提案を日本政府や企業に行っている。同社から提供された日本向け資料から、現状と狙いを読み解く。

水からのトリチウム除去に成功

ロスアトムは6月7日、日本のメディアに、福島第一原子力発電所の汚染水に含まれる放射性同位体トリチウムを除去する実験をロシアでグループ企業が成功させたと、発表した。ロシアのメディアが、今春伝えたものを確認するものだ。

このプロジェクトは、日本の福島原発事故の収束のために行っている汚染水処理対策検証事業の一つだ。東京電力の福島第一原発では、炉の冷却などに使った水が放射性物質に汚染されていた。その水の放射性物質の除去には成功したが、水と性質が似ているトリチウムの除去ができなかった。この技術は、どの国もこれまで成功していない。そのために福島第一原発構内から処理水を捨てられず、1000基もの水タンクを建設し、80万立方メートル(3月時点)もの水を溜め込むことになった。

トリチウムは健康への害はないとされるが、周辺住民、漁民の懸念からそれの含まれた処理水を海に捨てることができない。トリチウムが除去できれば、健康被害のリスクは一段と減り、また汚染水を海に捨てることの説得も容易になるであろう。

方法の詳細は明らかにされていないが、ロスアトムの子会社のロスラオ社が、5月30日にモスクワで開催された原子力技術の博覧会で発表した。詳細の公表、そして現実への応用が期待される。

ロスアトム、バックエンド技術を日本に紹介

ロスアトムは昨年11月、東京で「バックエンド関連技術ワークショップ」を開催した。バックエンドとは、原子力発電で出た放射性廃棄物の処理全般のことをいう。同社は高度な使用済み核燃料対策、除染の技術を持っている。チェルノブイリ事故の収束作業や核兵器開発の中で、そうした技術を発展させてきた。

このワークショップにはロシアのアファナシエフ駐日大使、ロスアトムのコマロフ筆頭副総裁などの高官が参加し、日本との原子力分野でのビジネス拡大、技術協力をそろって期待した。日本側の参加者の関心も高かった。あるプラントメーカーの技術者は「使用済み核燃料処理、バックエンド対策は、米仏の企業と協議していたが、ロスアトムの取り組みも大変素晴らしいものと分かった」としている。

そしてワークショップでは以下の情報が提供された。

 【ロシア・ロスアトムと原子力産業の現状】

ロシアは現在33基の原子炉をロスアトム管理の下で稼動している。同国は天然ガス、原油などの化石資源に恵まれているが、それでも14年には全電力需要の17%が原子力でまかなわれている。さらに同社は東欧、アジア、中東などの30基の原発建設を受注している。原子力は同国の重要な産業だ。2007年にロシア連邦原子力庁が企業化されて国営企業のロスアトムになった。

旧ソ連で使われたチェルノブイリと同じ黒鉛減速沸騰軽水圧力管型原子炉(RBMK型)は、既存のもののメンテナンスは行っているものの、すでに新規建設はしていない。輸出用、新規建設のものは西側の加圧水型原子炉(PWR)とほぼ同じコンセプトで作られ安全性も確保された、ロシア型加圧水型原子炉(VVER)になっている。

日本のウラン燃料の15%が、カザフスタンやロシアで採掘されロスアトムグループが加工し提供されている。日本海を通る輸送ルートの安全性も確保され、ロスアトムの工場からの輸送期間も短縮している。原子力を活用するインフラの整備も進んでいる。

同社の強みは、原子炉の建設に加えてウラン燃料の採掘と加工による燃料の提供、使用済み核燃料の再処理、原子力技術者の教育など、環境汚染対策や原子力をめぐる産業廃棄物・放射性廃棄物の処理など、原子力発電をめぐる一貫したサービスを提供できることだ。その技術力も世界最高水準だ。そして同社はロシア政府の支援も受けて、海外での建設や原子力関連サービスの受注を積極的に行い、ロシアの重要な外交の道具になっている。

【再処理の提案と技術の現状】

ワークショップでは、バックエンドでロスアトムの提供できるサービスが紹介された。同社は「日本の原子力発電の使用済み核燃料の処理を引き受けること」を提案した。これは英仏の企業に再処理を依頼する日本にとって新しい選択肢となる重要な提案だ。

ロシアでは2011年に法改正がされ、すべての使用済み核燃料をリサイクルすることになった。それによって核燃料の容積の削減、再利用を行う。そこから抽出されるプルトニウムを実験的に稼動している高速炉に加えて、MOX(ウラン・プルトニウム混合)燃料として既存の原子炉で消費するという。そこからの高レベル廃棄物は、乾式貯蔵を行い、最終的な処理方法を検討しているという。ロスアトムは現時点で、核燃料サイクルを2030年までに完結させることを目指す。

現在はMOX燃料の技術の改善を進めており、新しい技術による混合燃料は、効率的な核反応を行うことで、原子炉での天然ウランの消費量を約20%削減できるそうだ。ロスアトムはこの再処理研究施設の拡充を予定している。

ロシアとの協力を選択肢に

(写真3)ロスアトム社のセルゲイ・キリエンコ社長とプーチン大統領の会談。ロシアは国の支援で原子力輸出を進める。

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ロシアの原子力というと、日本人の大半は1986年の「チェルノブイリ事故」を連想し、技術的に劣っているという印象を持つ。それは誤ったイメージで、ロスアトムは大変な実力を持っている。ロスアトムとロシア政府は、中国に原子力技術を輸出し、高速炉と新型炉研究では、韓国との連携を強めている。

原子炉建設では、世界のトップメーカーである東芝、日立、三菱重工という日本企業勢が福島事故対策とその後の日本国内の原子力政策の混乱への対応に忙殺されている。その間隙を縫って世界の各所で受注を確保し、存在感を増している。

日本はかつての冷戦時代に、ソ連と原子力面での関係はなかった。その名残りで今もロシアとの原子力での協力は進んでいない。またプルトニウムの拡散に結びつきかねず、再処理事業のロシアへの委託は米政府が難色を示すために、実現は政治の面から難しいであろう。

しかしバックエンド、除染などのロスアトムの進んだ技術の取り入れは、日本のためにもなるはずだ。ロシアの原子力産業をより深く知るべきだ。状況によっては協力を深め、それによる福島原発事故の収束、バックエンド問題の一段の進展を進める必要があるだろう。