欧米のメディアは一斉に掲題を伝えている。たとえばFT “New Saudi oil minister signals end to glut” (June 22, 2016 7:17pm)がその一つだ。
読んでみると、元ネタはHouston Chronicle(HC)が行った独占インタビューに基づく ”Saudi energy minister says oil glut was vanished” (June 22, 2016 9:56am updated) という記事だ。
HCの記事によると、モハマッド副皇太子ミッションの一員として訪米中のファーリハ氏は、地元テキサスA&M大学の卒業生で、会長を務めているサウジアラムコ社のテキサスにおける操業実態を視察するために来訪し、テキサス・ファインアート美術館で開催された夕食会に参加した、今回、就任後初めて新聞社とのインタビューに応じた、とのことだ。
さて、ファーリハが語ったことは何だろうか。
最大の要点は、各紙が報じているように
・供給過剰は(各地で供給阻害が発生していることもあり)解消した、
・だが(過去2年間に)積み上がった在庫の解消は今年後半か来年までかかるだろう、
・余剰生産能力を維持し、必要に応じスイングプロデューサー役を果たす、
ということだろう。
以上に加え、筆者にはHCが報じている次の諸点が興味深いものとして受け止められたので紹介しておきたい。
いずれもファーリハ・エネルギー相の発言に基づくものである。
・問題は過剰な在庫を如何に早く解消できるか、である。在庫が価格回復のキャップになっている。解消するまでには今年後半か来年まで待たなければならない。(米国商業在庫は歴史的な5億3000万バレルとなっており、解消には数ヵ月かかる)
・OPECが過去に市場コントロールの道具として使用してきた価格目標は、長期的にみるといつも機能したわけではない。我々が何をしようとも、結局は市場の力が勝つのだ。
・Vision 2030で脱石油化を目指す方針を掲げたが、石油を放棄する、ということではない。1250万B/Dの生産能力を維持するためにさらに投資を継続する。一方で、石油以外の産業がより早く成長することを望んでいる。(現在の生産量は1020万B/D程度)
・今後、一次エネルギーのミックスは変化し石油の比率は30%から25%に下がるだろうが、必要な一次エネルギー総量が増えるため、将来も石油は重要なエネルギー源であり、2030年、あるいは2040年でも必要とされる絶対量は現在より大きい。特に、輸送と石油化学用需要は伸びる。温暖化対策と技術革新によるエネルギー源の大幅移行には何十年という時間がかかる。
なおFTは、世界最大の石油トレーダーのボス、イアン・テーラーの「年末までには50ドル台半ば、あるいはもう少し高くなり、米国の生産減少も止まる」という発言と、イランの輸出量が制裁開始前の水準である230万B/Dに回復した、と伝えている。
OPECおよび非OPEC主要産油国による油価回復の試みだった4月17日の「ドーハ会議」は、直前になってモハマッド副皇太子(MBS)が介入したことによって失敗に終わった。爾来、6月2日のOPEC総会まで、市場には「MBSがイランと対抗するために、余剰生産能力をゼロにしても増産を指示するのでは?」との疑心暗鬼が漂っていた。
その懸念が、このインタビューにより完全に一掃されたといっていいだろう。
ファーリハ・エネルギー相の長期的な見方は、BPやエクソンモービルの「長期予測」(詳細は弊著『原油暴落の謎を解く』参照)とほぼ同一だ。
またMBSミッションの一員として訪米中の発言なので、MBSの意向にも沿っているものと考えられる。
これで、当分のあいだ「サプライズ」はなさそうだな。
編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2016年6月23日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。