「短期的デモクラシー」が世界をおおう

池田 信夫

今回のイギリスの国民投票で印象的なのは、次の図だ。教育程度が低く、年齢の高い人ほど離脱派が多い。前者は移民に職を奪われるのが単純労働者だという感情で説明できるが、後者はちょっとわかりにくい。


Economistによれば、これは保守党の本音が離脱派だったからだという。そもそも今度の国民投票は、保守党内の離脱派の批判に対して、キャメロン首相が「それじゃ国民投票で決着をつけよう」と始めたものだった。離脱派の代表ボリス・ジョンソンの主張は「イギリスの主権を取り戻す」という漠然としたものだが、これが古きよき大英帝国に戻ろうという老人の共感を呼んだのだろう。

これからEU理事会との2年にわたる離脱交渉と、27ヶ国との悪夢のような関税交渉が始まる。イギリスの貿易も投資も雇用も激減し、シティは世界の金融センターではなくなるだろう。こうした経済的ダメージは年金生活者や単純労働者には大した問題ではないが、若年層はそれが自分たちの負担になることを知っている。

この対立は、日本の直面している問題と似ている。ポイントは老人か若者かということではなく、短期的な利益を重視するか長期的な価値を重視するかの違いなのだ。金融・財政システムが整備されたおかげで、今の老人には(一見すると)フリーランチが可能になったようにみえる。

しかしBrexitでも明らかなように、そういう未来のダメージは割引現在価値として今の経済に反映され、通貨も株価も暴落する。だが現在価値を計算をすることはむずかしく、多くの国民には短期的な利益しか見えない。だから今回のような長期的な問題を国民投票にかけてはいけなかったのだ。

本来はそういう問題を考えるのが政治家の仕事だが、ドナルド・トランプから安倍首相に至るまで、メディアの発達で政治家のレベルはよくも悪くも大衆に近づいている。それを特殊な「ポピュリズム」と考えるのは間違いだ。視野が狭く短期的なのは、大衆支配という意味のデモクラシーの本質であり、この傾向は今後もますます強まるだろう。

今週からのアゴラ政治塾ではこうしたデモクラシーの欠陥を考え、夏の合宿ではそれを立て直す道を考えたい。