ブラジルが財政危機による経費節約のため34の国際機関から脱退を考えているという記事をロイター通信が流していた。潜在的脱退候補リストの中にはウィーンに本部を置く国連工業開発機関(UNIDO)の名前が入っていたという。
▲加盟国から事務局長当選の祝辞を受ける李勇氏(2013年6月24日、撮影 )
ブラジルは南米最大の経済国であり、世界7番目の経済規模を有する。134カ国から構成された開発途上国の77カ国グループ(G77)の主要メンバーだ。そのブラジルがUNIDOから脱退すれば、他の開発途上国の脱退を誘発する契機となるかもしれない。
ブラジルは過去UNIDOに2100万ユーロの分担金未払い分を抱えている。ブラジルは1996年12月の米国の脱退に倣い、未払い金を払わず脱退する可能性が高いという。
G77は今月15日、西側諸国のUNIDO脱退に大きな懸念を表明している。UNIDOでは1993年から2016年までに9カ国が脱退した。英国、フランス、ポルトガル、ベルギー、リトアニア、カナダ、オーストラリア、ニュージランド、米国だ。
それだけではない。デンマークとギリシャ両国は来年1月には脱退することが決まっている。そしてオランダは現在、2議会で承認が得られれば、来年脱退する。すなわち、欧米の計12カ国が来年にはUNIDOから離脱するわけだ。
G77が、「われわれは欧米諸国の脱退ドミノ現象を恐れる」というのも頷ける。その矢先、ブラジルが開発途上国の工業開発支援の国連専門機関のUNIDOから出ていくことになれば、文字通り、UNIDOの終焉が始まったことを意味する。
G77は欧米諸国のUNIDO脱退がその国の財政事情の悪化が主因と受け取っているが、それは間違っている。欧米主要国にとってUNIDOへの分担金は大きな財政負担ではない。問題は少額であったとしてもUNIDOに分担金を支払う意義、価値があるかだ。価値なき機関に少額でも支払いたくないというのが本音だからだ。そして欧米12カ国の答えは「UNIDOに分担金を払う価値と意義がない」というわけだ。
なぜ米国はまだ発効もしていない包括的核実験禁止条約(CTBT)機関に財政支援するのか、なぜ米国は1985年6月に加盟したUNIDOから11年後、脱退したのか。G77は冷静に考えるべきだろう。
一方、中国人の李勇事務局長は就任直後からUNIDOを中国の開発途上国への経済戦力拠点として利用している。すなわち、国連専門機関を中国の国益拡大の戦略的基地化とすることだ。中国にとって、欧米諸国の脱退はどうでもいいのだ。同事務局長は大量の通称コンサルタントと呼ばれる専門家を北京から呼び、着実に計画を進めている。
UNIDO最大分担国の日本はどうしているのか。UNIDOの再生に積極的に動く気配は見られない。UNIDO職員は「なぜ日本がUNIDOを依然支援するのか分からない」と首を傾げている。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年6月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。