英国が欧州連合(EU)からの離脱か残留かを問う国民投票を実施した結果、離脱派が勝利した。その結果を受け、オーストリアの極右政党自由党のノルベルト・ホーファー副党首は25日、同国メディアとのインタビューで、「EUが1年以内に改革を実施しない限り、わが国はEUに留まるかどうかを問う国民投票を実施すべきだ」と答えた。
自由党はEU懐疑派の政党であり、ブリュッセル主導の政策に対して批判的だったが、EU離脱は主張してこなかった。あくまでもEUが加盟国の主権を重視し、その官僚主義的な政治姿勢を修正すべきだと主張。それが実現できない場合、離脱もやむを得なくなるというのが自由党の路線だった。その際も、シュトラーヒェ党首は「一定の期間後」というだけで、ホーファー副党首のように「1年以内」といった明確な期間を公言してこなかった。
大統領選候補者だったホーファー氏は英国の離脱決定に鼓舞され、このモメンタムを逃すべきではないという政治的読みから、「1年以内にEUが改革されなければ、国民投票の実施を要求する」というタイム・プランを明確にしたわけだ。
英国のEU離脱決定は、欧州レベルではフランスの ジャン=マリー・ル・ペン党首が率いる「国民戦線」、オランダのヘルト・ウィルダース党首の「自由党」など、EU懐疑派の政党、EU離脱派の政党に歓迎されている。「英国に倣って」早急にEU離脱か残留かを国民に問うべきだというわけだ。
ところで、離脱決定後、英国は離脱決定をブリュッセルに通知するのを躊躇し出している。国民投票の再実施などを要求する声がロンドンなど都市部や若い世代の間で高まっている。一方、独、仏、伊3国首脳は英国の迅速な離脱を促している。ぐずぐずしていると27カ国の加盟国から英国のように離脱を願う声が高まり、EUの統合が分裂してしまうという懸念があるからだ。欧州の極右政党は英国の離脱決定を受け、その勢いで自国内でも国民投票を実施しようと模索し出している。三者三様の立場と読みがあるわけだ。
欧州では北アフリカ、中東から多数の難民、移民が殺到した結果、国内で難民・移民受け入れに反発の声が高まっている。そこで“自国ファースト”を表明する極右政党が選挙では国民の支持を獲得してきた。既成政党は極右政党の躍進を阻止できず苦慮してきたが、英国のEU離脱は欧州の極右政党壊滅の絶好の機会となるかもしれないのだ。
英国がEUから離脱し、その結果、国民経済は低迷し、失業者も増え、国民が一層苦しむ状況が出てくれば、欧州のEU懐疑派、離脱派、自国ファーストを掲げる極右政党はもはや何も言えなくなる。欧州国民は、「やはりEUに留まるべきだ」と考え出すだろうし、グローバルな世界経済の中で生きのびていくためにはEUの持つ経済的利点と連携が必要だと理解できるのではないか。
もちろん、少々非現実的なシナリオだが、離脱後、英国経済はさらに発展するかもしれないし、失業率も低下するかもしれない。いずれにしても、EU離脱後の英国経済、社会の実情を目撃することで、欧州の極右政党の路線を検証できるのだ。
心痛いのは、英国国民が欧州の極右政党を壊滅させるための供え物となるかもしれないことだ。英国民は辛い体験を余儀なくされるかもしれない。しかし、大げさな表現となるが、犠牲なくして人類は発展できないのだ。欧州の統合プロセスも例外ではない。繰り返すが、英国のEU離脱決定は極右政党の主張をチェックできる絶好の機会だ。このチャンスを逃してはならない。英国よ、速やかにEUから離脱してくれ。
最悪のシナリオは、離脱を決定しながら、英国が離脱交渉という名目でEUに長く留まる一方、EUは難民政策、金融政策で抜本的な改革を実施しないケースだ。そうなれば、欧州の極右政党は益々その勢力を広げ、最終的には欧州全土を覆い尽くすだろう。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年6月29日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。